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問題点4
このオリジナル曲は疾走感があり、アコースティックバンドがやるにしては結構パワーのある曲調だ。
すぐ側にいたのに、二度と届かない存在となった大切な人。
今もすぐそこで笑っているように感じて、しかし振り返った先にいつもの笑顔はない。
それでも自分は歌い続ける。
届けられなかった思いを。
あなたに届くように歌っている。
そういったメッセージ性の曲。
それをしんみりとではなく、強く、真っ直ぐな音楽で歌い通す。
これはオリジナル曲だ。
作ったのは誰なのか知らないが、並の才能ではない。
作曲者が何を伝えたいのか、それをどういった曲調に乗せるのか、それらに一本筋が通っている。
圧巻されるとも言っていい。
最後の一音を歌い上げ、小さく息を吐く。
軽くではあったが、無事に歌い切れたことにホッとした。
練習を開始して今日で2日目。
真琴に懇願された俺は、2人の前でざっとその曲を歌い上げていた。
一瞬の静寂。
そして次には、バッと勢いよく座っていた真琴が立ち上がる。
そしていきなり突進する勢いで抱きつかれた。
あまりの衝撃に尻餅をつきそうになるが、なんとか2、3歩よろめくのに留めて踏ん張る。
「お、おいなんだよ…!?」
「……」
「真琴…?どうした…?」
抱きついたまま黙り込んでいる真琴に戸惑い、助けを求めるように遥先輩(間宮先輩と呼んでいたら下で呼んでと訂正された)を見るがスルーされた。
元々コミュ力のない俺は解決策が見つからず、抱き締められたまま硬直する。
どのくらい経っただろうか。
やっと俺から体を離した真琴は、その顔を真っ赤に染め、キラキラと目を輝かせながら俺を見上げた。
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