44 / 142
すごいやつ2
「…ふーん。なるほどな」
俺が話し終わるのと、陽介が全球打ち終え出てくるのはほぼ同時だった。
自販機で買っておいたスポーツ飲料を差し出す。
それを陽介は「サンキュー」と言いながら受け取って、俺の隣に腰掛けた。
「流石1年で4番を勝ち取るモンスターは違うな」
「なんだよモンスターって。俺の場合は守備でももっと貢献したいかな。あと数ヶ月で今年も終わりだし、来年には新チームで本格的に試合することになる」
「来年こそは甲子園ってか?」
「高校球児たる者、目標にするのは当然だろ」
今年はあと一歩のところで届かなかったと聞いた。
うちの高校がそんなに野球が強かったのは知らなかったが、2年にいいピッチャーがいて、更には陽介が入ったことにより、決勝まで勝ち進んだのは野球部創部以来の快挙だったらしい。
「お前は凄いな、色々と」
「……」
「…なんだよ」
「お前が人を褒めるとか、相当追い詰められてんなと思って」
「……」
不服だったが、言い返すこともできずに顔をしかめる。
そうしていると陽介はベンチに深く腰掛けた。
「奏一は凄いやつだって、俺はずっと思ってるよ」
「…は?」
「お前は俺のこと褒めてくれたけど、俺からしたら奏一の方がずっとずっと凄い」
なんだ、この誉め殺しは。
真意が読めずにたじろいでいると、陽介が此方に顔を向けた。
「言われたことをするだけなのって、簡単だと思うんだ」
「え?」
唐突にそんなことを言われきょとんとする。
陽介は更に話を続けた。
「周りに合わせて笑ったり、話したり。そうやって空気を読むのも、大切なことだとは思う」
持っているペットボトルを揺らしていた手を、陽介は止めた。
そして次には困ったような笑みを浮かべる。
「でもきっと、それだけじゃ駄目なんだ」
ともだちにシェアしよう!