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すごいやつ4

それから俺は、人に歩み寄るのが怖くなった。 佐久は既に転校し、それからは佐久のいない日常が続いた。 でも俺はいつまでもその日のことが忘れられずにいる。 そうして気付けば俺は中学生になっていた。 友達はたくさんいる。 でもどこかで距離をとっている自分には気付いていた。 いつもどこかで佐久の顔がチラついていた。 「いいよな陽介は、色々恵まれてて」 2年生になってすぐのある日。 休み時間、友達と駄弁っていた時だった。 唐突にそんなことを言われ、俺は一瞬きょとんとしてしまった。 相手はバスケ部に入っている男子で、なんでもレギュラーに選ばれなかったらしく先程から機嫌が悪い。 「別に練習とかしなくてもお前は楽勝なんだろ?1年からレギュラーだもんなお前。マジ不平等だわ」 その言葉に、正直少し苛立った。 努力していないなどと、何も知らない人間から言われたくはない。 毎日必死で練習している。 走り込みも素振りも、欠かさず取り組んでいる。 それを恵まれているなどという一言で片付けられたくはない。 それでも俺は、ヘラヘラと笑うことしかできなかった。 言い返すぐらいなら、黙って耐えていた方がいい。 額に残った古い傷が、ズクリと痛み始めた気がした。 「そういうの、ウザいんだけど」 不意に聞こえたその声に、ハッと我に返る。 反射的に顔を向けると、まるで刃物のような鋭い視線とぶつかり、無意識に息を呑んだ。

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