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スタートライン2
深呼吸をしてみた。
柄にもなく緊張している。
気を抜くと手が震え出しそうだった。
失敗はできない。
なんとしても、最後まで歌い切らなくては。
たかが文化祭。たかが学校の催し物。
なのに今までのどんな舞台よりも怖くて堪らない。
「怖い顔」
「…え?」
声が聞こえた。
顔を上げると、いきなり両手で頬をムニュー!っと挟まれる。
「ふぁ、ふぁにふんだよ!?」
驚きながら目の前の相手に抗議すると、ニッと悪ガキのように真琴が笑う。
次にはその顔が近づき、至近距離で見つめ合った。
真っ直ぐに此方を見つめるその瞳に、俺は無意識に息を呑む。
「失敗したとしても、それがなんだってんだ。どんだけカッコ悪くってもいいじゃん。歌は何よりも自由なんだから」
「…っ」
「だから顔上げて。俺たち3人で、目一杯楽しもうよ」
手を引かれる。
目の前の背中が、いつもより大きく見えた。
あぁ、お前はなんで、そんなにも真っ直ぐなんだ。
眩し過ぎて、堪らず目を逸らしてしまいそうになる。
それでも見つめていたい。
御厨真琴という人間に、俺は強く惹かれている。
体育館の袖から、舞台へと足を踏み入れる。
目の前には多くの人がいた。
再び大きく深呼吸する。
いよいよだ。
いよいよ、始まる。
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