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スタートライン4

しかしドクンドクンとうるさい心臓は、俺の思考の邪魔をした。 意識とは別に体が反応している。 歌を恐れている自分が、この状況を拒絶している。 曲はどんどんとサビに向けて盛り上がりをみせた。 いつもサビを歌う直前に、俺の声は消え失せてしまう。 俺から歌を奪い取っていく。 消えないでくれ。 このままの調子でいかせてくれ。 最後まで歌わせてくれ。 どうか、どうか…… 「…ッッ!」 喉が、締め付けられる感覚があった。 ヒュッと息だけが喉を通り過ぎていく。 出ない、出ない。 声が出ない。 「…ッッ」 やっぱり、無駄だったのだろうか。 俺にはもう、歌を歌う資格などないのだろうか。 これは罰だ。 歌を捨てた俺への罰。 目を背けようとした俺への罰。 歌から逃げた俺には、もう── 『どれだけ辛くても、俺は歌う!』 「…っっ!?」 その時、尻に強い衝撃が走った。 我に返った俺は、隣の真琴に蹴りを入れられたのだと気付く。 「い…っっ!」 その痛みにあと少しで叫び出しそうになった声を押さえ込んだ。 ……え。声、を…? 「……ぁ」 俺、今、声が出てる…。

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