55 / 142
スタートライン6
サビに入った瞬間、2人の歌声が重なる。
溶け合い、混ざり合う。
その音楽は、体育館一帯を飲み込んで行く。
見る者、聞く者の心を揺さぶる。
1人の男子生徒は、無意識に吐息を漏らした。
1人の女子生徒は、込み上げてくる感情に涙を流した。
隣で歌う真琴がその目を輝かせる。
そして更に、その歌声に磨きがかかる。
此方を揺さぶり、引き上げてくるのが分かる。
なんでお前は、そんな風に歌えるんだ。
強く強く、此方の心を揺さぶってくるんだ。
「届け」という言葉が脳裏をかすめた。
そうか。お前は常に、その歌声を届けたい誰かがいるんだな。
だからそんなにも、お前の歌声は色鮮やかに輝いているんだな。
だったら俺は、お前に届けたい。
散々俺を振り回してきたお前に、強引に手を引いてきたお前に、今は届けたい。
──来い。来い。ここまで来い。
そんな真琴の声が聞こえる気がする。
直接言葉を発していないのに、自然と心が通じ合う。視線だけで言葉を交わす。
──あぁくそ、やってやるよ。
──こらこら、一丁前にこっちを食おうとすんな!
「すげー…」
1人の男子生徒とが呟いていた。
その隣にいた友人も、その場に立ち尽くしたまま口を開く。
「あの2人…。まるで、歌で会話してるみたいだ…」
「いや、会話というか…」
ゴングを鳴らしてるような…。
ともだちにシェアしよう!