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スタートライン7

この曲は短く纏まっているため、サビを歌いきれば後は終わりに向かって進んで行く。 あぁ、もう終わってしまう。 あんなに遠ざけていたもののはずなのに、今はぶっ倒れるまで歌い続けたい。 歌が嫌いだった。 俺を苦しめ、苛立たせる歌が、何よりも嫌いだった。 でもそれは偽りの感情だったのだと、気付いた。 真琴が俺に、それを気付かせた。 最後の一音を奏で、一瞬、その場を静寂が包み込む。 そして次には、体育館が揺れるほどの歓声で埋め尽くされた。 目の前の光景に、胸が締め付けられる。 隣を見れば、汗だくの真琴が笑っていた。 「ほらな、やっぱり奏一は歌えるんだ」 「…っ」 その言葉に目を見張り、次には笑みが溢れる。 真琴は一度間を開け、再び口を開いた。 「……ありがとう」 「え?」 消え入りそうな掠れた声で告げられた言葉。 次には真琴の頬に、一筋の涙が伝っていた。 その涙に、俺は瞠目する。 溢れんばかりの喝采の中、俺はその涙の訳を、聞くことはできなかった。

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