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スタートライン8
頭の中で、今日の出来事がリフレインする。
何度も、何度も、何度も…。
「楽しかったなぁ」
そう言って隣を歩く真琴が笑う。
無邪気な子供のような、弾むような声。
その耳に心地いい声に、束の間瞼を下ろす。
吐き出した吐息が暗くなった空に溶け込んで行く。
熱を帯びた頬を冷ますように、ひんやりとした風が通り過ぎた。
「……なんで、俺だったんだ」
徐に、問うていた。
興味を抱いたのが、予感がしたのが、なんで俺相手だったんだ。
今更な質問。
明確な答えなんかあるのかも分からない。
でも時折俺を見つめる瞳に、深い悲しさが滲んでいたのは知っていた。
『……ありがとう』
掠れた声が、頬を伝った涙が思い出される。
真琴はふぅっと息を吐き出した。
僅かな静寂の後、静かに告げられる。
「兄ちゃんに似てたから」
放って置いたら、消えちゃいそうだった。
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