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スタートライン10

俺は一体、何をしているのだろう。 束の間の衝動に抗えなかった。 無性に、真琴とキスしたくなった。 そっと唇を離し、真琴を見つめる。 目を見開いたまま固まっているその顔を覗き込む。 心臓がうるさい。 さっきよりも、体が火照っているのが分かる。 反応のない真琴が気にかかり、その頬に触れ名前を呼ぼうとした。 しかし… そうする前に真琴は俺に背を向ける。 「え…」 そして物凄いスピードで逃亡した。 「はぁあ!?」 引き留める間もない。 人間離れした運動神経を持つ真琴は、あっという間に見えなくなる。 立ち尽くす俺の後ろを、ヒュゥゥゥ…と冷たい風が静かに通り過ぎていった。 行き場をなくした手が宙を彷徨う。 俺は無言のまま、1人その場に立ちつくすことしかできないのだった。

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