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変化2
「じゃあまた明日な」
「…ん」
昇降口で陽介と別れ、重い足取りで歩き出す。
今日、真琴のことは何度か見かけた。
でも声をかけることはしなかったし、向こうもしてこなかった。
謝るべきだろう。
いきなり訳分かんないことして、困らせた。
でも、どんな顔して話しかければいいのか分からない。
「だーれだ」
「!?」
いきなり目の前が暗くなった。
背後に誰かの体温を感じる。
俺は即座に目元に覆われた手を振り払い、距離を取った。
「…あ」
「どーも」
「は、遥先輩…」
反応に困って立ち尽くしていると、相変わらず気怠そうな先輩が口を開いた。
「ちょっと聞きたいことがあんだけど」
「え、なんですか…」
「真琴のこと」
「…っ」
言葉に詰まる。
そんな俺の様子を無言で見つめていた先輩は、すっとその目を細めた。
まるで何もかも見透かされているような目に、体が強張る。
「今日真琴に会ったら、なんか様子がおかしかったんだよ。なんか知ってる?」
「え、あ。その…」
「お前がなんかしたの?」
「…っ」
背中に冷たい汗が伝った。
ただ淡々と聞かれているだけなのに、息が苦しい。
何も言えずに固まっていると、遥先輩は特に態度を変えないまま口を開いた。
「奏一はさ、真琴が好き?」
「…は?」
突然の問いに素っ頓狂な声が漏れる。
でも遥先輩は真顔のままだった。
彼の意図が分からずに、俺は困惑する。
言葉が出てこず、俯くことしかできなかった。
真琴が好き。
それをあっさり認めてしまっていいのか分からない。
認めればもう、戻れない気がした。
この感情は、どういう区分になるのだろう。
好きの境界線、likeとloveはどこから決まるのだろう。
そんなことを考え、身動きが取れなくなる。
でも本当はもう、その答えが出ているのではないか?
「俺は好きだよ」
その声に、弾かれたように顔を上げた。
目の前に立つ先輩は、真っ直ぐに俺を見つめている。
「俺は真琴のこと、そういう意味で好きだよ」
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