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変化4
「俺は、ちょっと呼び出し」
「は?誰に」
「お兄さんの知らない人ー」
当たり前のことを言ってニコニコ笑ってる中坊の首筋に、不釣り合いな赤い跡がいくつも見えた。
首筋にキスマーク。
こんなやつでも、色々事情があるんだな。
その時ふと気付く。
中坊は背中にギターを背負っていた。
「お前、バンドでもやってんの?」
「ううん、やってない」
「じゃあなんで待ってる?」
「兄ちゃんのやつなんだ、これ」
「……ふーん」
話が噛み合っているのか噛み合ってないのかよく分からない、不思議な会話。
ついさっき会った相手と、俺は何を話しているのだろう。
「……俺も弾いたりする」
「え?ギター?」
「もだし、ドラムとかも」
「え!マジで!?すごい!」
瞬く間にテンションの上がったそいつは、その目をキラキラと輝かせて俺を見上げてくる。
綺麗な目だと思った。
ガラス玉みたいに綺麗な目。
「俺さっ、北高志望なんだ!受かれば来年入学!」
「お前中3なの?1年か2年だと思った」
「むっ。なにそれ失礼じゃね!?」
平凡な毎日。
淡々と過ぎる日々。
でもこいつが来るようになったら、何か変わるのかもしれない。
プンスカ怒るそいつの隣で久しぶりに笑みを浮かべながら、俺はそう感じていた。
モノトーンだった世界に、鮮やかな色が帯びた気がした。
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