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変化6

会いたい。 どうしようもなく、会いたい。 あの猫のような瞳も、色素の薄い髪も、笑った時に見える八重歯も、鮮明に思い出せる。 足は自然と、あの丘の上に向いていた。 初めて真琴の歌を聞いた場所。 俺が歌を歌おうと決心した場所。 何故だか、真琴がそこにいる気がした。 そしてそれが、間違いでなかったと分かる。 耳に馴染んだ歌声が、風に乗って聞こえてきた。 悲しげなメロディに包まれながら、石階段を上がって行く。 そして辿り着いたその場所に、心なしかいつもより小さな背中が目に入った。 「真琴…」 「え?」 ビクリと体を震わせる真琴が此方を振り返る。 まるで驚いた時の猫みたいだ。 次には此方を見たその目が見開かれる。 瞬間、真琴が素早く駆け出した。 「なっ。おい待て!」 階段は俺が塞いでいるから逃げ場はないと踏んでいたが、真琴は一切の躊躇もなしに森へと突っ込んで行く。 その予測不能な行動に驚きながら、俺は急いであとを追った。 身軽な動きで木々の間を駆けていく真琴に、「どこの野生児だよ」と内心ツッコミながら必死に追いかける。 なんだか、まるであの時とは逆だ。 歌を拒絶する俺を追いかけ回していた真琴を思い出す。 あの時お前は俺を捕まえた。 だから俺だって、何がなんでも捕まえてやる。 大きく息を吸い、腹に力を込める。 そして俺は、真琴に向けて大声で叫んだ。 「おい!!ギターがケースから落ちてんぞ!!」 「え!?」

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