65 / 142
変化6
会いたい。
どうしようもなく、会いたい。
あの猫のような瞳も、色素の薄い髪も、笑った時に見える八重歯も、鮮明に思い出せる。
足は自然と、あの丘の上に向いていた。
初めて真琴の歌を聞いた場所。
俺が歌を歌おうと決心した場所。
何故だか、真琴がそこにいる気がした。
そしてそれが、間違いでなかったと分かる。
耳に馴染んだ歌声が、風に乗って聞こえてきた。
悲しげなメロディに包まれながら、石階段を上がって行く。
そして辿り着いたその場所に、心なしかいつもより小さな背中が目に入った。
「真琴…」
「え?」
ビクリと体を震わせる真琴が此方を振り返る。
まるで驚いた時の猫みたいだ。
次には此方を見たその目が見開かれる。
瞬間、真琴が素早く駆け出した。
「なっ。おい待て!」
階段は俺が塞いでいるから逃げ場はないと踏んでいたが、真琴は一切の躊躇もなしに森へと突っ込んで行く。
その予測不能な行動に驚きながら、俺は急いであとを追った。
身軽な動きで木々の間を駆けていく真琴に、「どこの野生児だよ」と内心ツッコミながら必死に追いかける。
なんだか、まるであの時とは逆だ。
歌を拒絶する俺を追いかけ回していた真琴を思い出す。
あの時お前は俺を捕まえた。
だから俺だって、何がなんでも捕まえてやる。
大きく息を吸い、腹に力を込める。
そして俺は、真琴に向けて大声で叫んだ。
「おい!!ギターがケースから落ちてんぞ!!」
「え!?」
ともだちにシェアしよう!