66 / 142

変化7

動揺して動きが鈍くなった真琴は、背負ったギターを確認しようとして前方にあった木にぶつかった。 「ぶぐっ!?」と情けない声を上げる真琴に、俺は一気に距離を詰める。 そして目の前までやってくると、振り返った真琴の顔の横に力強く手をついた。 木に背中を押し付けた真琴がビクッと体を揺らす。 その木の皮が、手をついた衝撃で僅かにパラパラと崩れ落ちた。 暫く2人のあらい呼吸だけが続いた。 そして次には、まだ呼吸が整わない内に俺が口を開く。 「き…昨日は、悪、かった…っ」 「…ぇ?」 「あれ…は、俺が悪い…」 俯いていた顔を上げると、至近距離で此方をまじまじと見つめる真琴と目が合った。 瞬く間に顔が熱くなる。 そうして俺が動揺している中で、真琴が心底驚いたという顔で言った。 「そ、奏一が謝った…」 「…おい。そんな驚きながら、言うことかよ…」 普通に話してくれたことに、少し安心する。 そしてだんだん呼吸が安定してきた俺は、一度大きく息を吐き出した。 もう腹は括った。 だから真琴に会いに来たのだ。 「真琴。俺はお前が好きだ」 「…!」 その猫目が見開かれる。 綺麗な瞳だった。 一瞬だが、今の状況も忘れてつい見入ってしまう。 まるでガラス玉のような、透き通った瞳。 髪と同じで色素が薄いのだろう、少しだけ透明がかって見えた。 「か、勘違いじゃねぇの…?」 「は?」 関係ないことを考えていると、予想外の言葉を返され素っ頓狂な声が漏れる。 真琴は俺から顔を逸らし、珍しく弱気な態度でその視線をオロオロさせていた。 「い、一緒に歌って…楽しくて、ドキドキ?して…。だから…、勘違い、してんじゃねぇの…?」 その場がシンと静まり返る。 すぐ側の存在を気にして真琴が恐る恐る顔を上げれば、眉間に深いしわを作った奏一が目の前にいた。 それに「ひぃ…っ」と真琴から情けない声が漏れる。 すると次には真琴は奏一に手首を掴まれていた。 その強い力にギョッとする。 「えっ、な、なに…!?」 「ちょっと来い!」 「えぇ…!?ってか、力強いって…!」 抵抗も碌にできないまま、引きずられるように真琴は奏一につられて歩き出した。

ともだちにシェアしよう!