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変化8
「あ。野良猫くんだ」
「ど、どうも…」
【BLUE MOON】の扉を開け、カウンターまで真琴を引っ張って行く。
綾人さんの目が真琴を捉えてキラリと光ったのが分かった。
あまり不用意に真琴を綾人さんと会わせない方が良かっただろうか。
いつもは優男のくせに、今はなんだか好きあらば食いつこうとする肉食獣のように見えてくる。
「野良猫くん」という呼び名に真琴が小首を傾げていのを無視して、さっさと椅子に座らせた。
ちょこんと座るその姿は、借りてきた猫ように大人しい。
「…えーっと。これはどういう状況かな?」
俺たちの様子を見て綾人さんが笑みを浮かべた。
なんでそんな楽しそうなんだこの人。
頻繁に入り浸っている俺が言えたことではないが、あまり深く関わっていい相手ではないのかもしれない。
「これは修羅場なの?」
「…アンタ、そんなデリカシーないキャラだったか?」
「野良猫くんのこととなれば話は別だよ。ね、何飲む?やっぱりミルク?」
「やっぱり?」
ニコニコと真琴に話しかける綾人さん。
もう完全に猫扱いだ。
理解していない真琴の頭の上には、いくつものクエスチョンマークが浮かんでいた。
「奏一くんはブレンドだよね」
「ん。真琴は?」
「え。あ、じゃあ俺もブレンドで…」
「熱いけど大丈夫?アイスコーヒーの方がいい?」
「え?それってどういう…」
「大丈夫だから。真琴は猫舌とかじゃねーから」
しっしっと追い払うように手を振れば、綾人さんはご機嫌なまま用意をし出す。
なんだかこんな風に綾人さんが人に絡むの初めて見た。
もしかすると、真琴の何かが彼のツボを押してしまったのかもしれない。
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