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答え
「…くん。…瀬くん。成瀬くん」
「……あ、はい」
パッと顔を上げると、数学教師と目が合った。
反射的に立ち上がる。
「今の問題、解いてくれるかな」
「あ……すみません、聞いてませんでした」
ついボーッとしてしまっていた。
正直に答えると、一気に教室がざわつき出す。
「あ、あの完璧人間の成瀬が壊れた…!」
「歌ったからか?歌ったからなのか!?」
「でもあの歌めちゃくちゃ良かったよ!!」
先生にもういいですよと言われ席に着く。
駄目だな…、放課後のことばかりに気が取られて心ここにあらずだ。
真琴の本心が知りたいのだと、そう言って今日の放課後にまた会う約束を取り付けた。
真琴にも考える時間はいるだろうしと思ったのだが、俺がこんな状態では元も子もない。
早く会いたい。
会って真琴の声が聞きたい。
だいぶ重症だなと自分でも感じる。
それでも想いは膨れ上がる一方だった。
『か、勘違いじゃねぇの…?』
そう言った真琴を思い出す。
一緒に歌って、ドキドキしたのを恋だと勘違いしているのではないかと言われた。
それは俺も、少し考えた。
でもやっぱり違うと思う。
遥先輩に色々言われて込み上げてきた感情も、真琴の声を聞いて胸が締め付けられる感覚も、俺にとっては初めてのもので。
こういうのを、恋心というのだと思った。
もしかしたら、この感情は真琴を苦しめるだけなのかもしれない。
それでも、目を逸らしたくないと思ってしまう。
これはただの俺のエゴ。
独りよがりな、恋心。
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