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傷跡7

誰かを愛することは恐ろしい。 愛情が深ければ深いほど、その存在がなくなった時に辛くなる。 だから極力友達とも一線を引いて、学校以外では関わらないようにしてきた。 大切な人を増やすことが、何よりも怖い。 もうあんな思いをしたくなかった。 そう、心に決めていたはずなのに…。 奏一と出会い、気付けば自ら歩み寄ってしまっていた。 ただただその存在に引き寄せられていた。 その声を聞いていたかった。 その目で見つめられたかった。 心から、歌を歌って欲しかった。 文化祭で歌ったあの曲は、兄ちゃんへ捧げたかった歌だった。 しかしいつも怖気付いて、ずっと歌えずにいた曲だった。 でも奏一となら、きっと歌えると思った。 俺はいつも念じている。 届け、届けと。 もう会えない兄ちゃんのもとに、俺の歌を届けたい。 それが俺にできる、唯一の償いだと思ったから。

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