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生きること3

真琴がいなくなってしまった後、俺は何もすることができずに放課後まで過ごしてしまった。 陽介に目が死んでるぞと心配されたが、俺はただただ呆然とする。 今日は金曜日なので【BLUE MOON】へは行けない。 1人でのろのろと帰路に着き、何度もため息を漏らした。 すぐ家に帰る気にもならず、帰り道にある河川敷で立ち尽くす。 川を眺め、どうしたものかとようやく思案する。 何が真琴の地雷だったのか俺には分からないけれど、とにかく謝るしかないだろう。 この際意地も何もなかった。 このまま仲が拗れて、たった数日で別れるとかマジで笑えない。 「わっ」 「?」 小さな悲鳴が聞こえた。 振り返ると、小学生らしき男の子が転んだようで地面に倒れている。 反射的に手を伸ばし、起き上がらせた。 膝小僧を少し擦り剥いただけだと分かりほっとする。 泣くかと思ったが、男の子は泣かなかった。 その代わり、焦ったような顔で「あっ」と声を上げる。 「おれのボール!」 「え?」 振り返ると、小さなボールが川に浮かんでいた。 転けたことで手から離れてしまったのだろう。 すぐそこにあるボールを、俺は流れていく前に急いで取りに行く。 そしてなんとかボールが手に触れた、その時。 「奏一!!」 耳に馴染んだその声が、今まで聞いたことのないほど切羽詰まった叫び声を上げて俺の名を呼ぶ。 危うく離しそうになったボールをなんとか掴み振り返れば、すごい勢いで真琴が駆け寄って来ていた。 驚いて後退りした俺は、足が絡まり後ろに尻餅をつく。 ばしゃんと、その場に水飛沫が上がった。

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