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合唱コンクール4

「遥。お前寝てばっかいないで授業出ろよ。留年したらどうするんだ」 「うっせぇなぁ。オカンかよ、うぜぇ」 いつもの気怠そうなものではなく、荒っぽい口調に少し驚く。 というか先輩にタメ口だし。 鬱陶しそうにする遥先輩にため息を漏らし、久遠先輩は「それじゃあな」と真琴の頭を撫で帰って行った。 その背中を見つめていた真琴が、不意に俺に声をかける。 「ごめん奏一。ちょっと飲み物買ってくる」 「え。お、おう」 頷けば、もう一度「ごめんな」と言ってへりゃりと笑った真琴は、小走りで教室を後にした。 *** 「久遠先輩っ」 声をかけると、先輩は足を止めて此方を振り返る。 目の前まで駆け寄り、俺は頭を下げた。 「曲、ありがとうございました。絶対いいものにしてみせますっ」 「おぉ、頑張ってな。それに礼なんていらねぇよ」 彼の瞳に悲しみの色が滲む。 それと同時に、胸の奥がつきりと痛んだ。 「暁斗(あきと)さんには、色々と世話になったからな」 一瞬息が詰まる。 何も返事のできない俺に、久遠先輩は困ったような笑みを浮かべて俺の頭を撫でる。 久遠先輩が中学1年の時、3年だった兄と知り合い色々と関わりがあったらしい。 本人曰く、間違った道に足を踏み入れていた自分を正してくれた恩人なのだという。 何度か家に来てくれたこともあった。 小学生だった俺を可愛がってくれた覚えがある。 「こんなこと、罪滅ぼしにもならねぇけど。少しでも力になれるなら俺も嬉しい」 その言葉に胸が痛む。 この人も苦しんでいるのだ。 兄ちゃんを助けられなかったことを、俺と同様に苦しんでいる。 「それと、真琴が楽しそうで安心した」 「え?」 顔を上げれば、優しげな目と視線が交わった。  慈愛に満ちた目だった。 呆然とする俺に、その目がすっと細められる。 「文化祭での歌、感動した。きっと、暁斗さんにも届いてるよ」 「…っ」 途端目頭が熱くなって、慌てて俯く。 震えた声で「ありがとうございます」と言った俺の頭を、先輩は再度くしゃりと撫でた。

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