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合唱コンクール7

自分にとっての歌を歌詞に起こす。 それは、今まで以上に歌と向き合えということだ。 俺にとっては拷問に近い。 思い出したくない思いや記憶と、真っ向から見つめ合わなければならないのだ。 そんなことが、俺にできるのだろうか。 汗ばんだ拳を握りしめる。 歌に対する恐怖が全てなくなったわけではない。 今でも俺は、ズルズル引きずったまま生きている。 あの時歌えたのだって、真琴が、遥先輩が、陽介が支えてくれたからだ。 そんな俺が、真っ向から向き合う…。 考えただけで息が乱れた。 まるで暗闇に1人取り残されたような孤独感に足が竦む。 身動きが、取れない…… 「どれだけ辛くても、俺は歌う」 「…っ!」 瞬間、弾かれたように顔を上げた。 目の前にいる真琴を、呆然と見つめる。 以前にも聞いた言葉だった。 より一層強い決意の込められたその言葉に、息を呑む。 そして気付く。 そうか。真琴も戦おうとしているのか。 きっと真琴も怖いのだ。 歌に向き合うことが、自分にとっての歌を見つけることが。 それでも前を向こうとしている。 逃げずに、自分にとっての歌を見つけようとしている。 ゆっくりと深呼吸をしてみた。 大丈夫。 あの文化祭で歌いきった今なら、できるはずだ。 「分かった。やるよ」 真っ直ぐに見つめ返し、はっきりと答える。 そうすれば、真琴は安心したようにへりゃりと力の抜けた笑みを浮かべた。

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