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しがらみ
「へぇ。奏一くんたちまた歌うんだ」
ここ最近、【BLUE MOON】へ行く時はちょくちょく真琴も同行することが増えていた。
初めは綾人さんに散々絡まれて戸惑っていたが、持ち前のコミュ力で今ではすっかり親しくなっている。
「面白そうだね。ほんと、真琴くんが来てから退屈しないよ。合唱コンクールって、見に行けたりしないのかなぁ」
「生徒からの申請があれば来れるみたいですよ。見に来てくれるんですかっ?」
「行きたい行きたい。真琴くん、申請しといてくれない?」
「もちろんいいですよ!」
なんか綾人さんが見に来ることになってるし…。
俺の確認もなしに、相変わらず勝手だ。
きゃっきゃっとはしゃぐ2人を横目に、俺は1人ブレンドコーヒーをすすっていた。
「じゃあ、また明日な!」
「……ん」
別れる場所まで来て、俺は歯切れの悪い返事をする。
すると何かを感じ取った真琴が、コクリと首を傾げた。
「家に帰りたくねぇの?」
「……」
「今日親は?」
「今日は、帰って来ない…」
「それでも嫌なの?」
まるで小さな子供のように尋ねられて情けなくなる。
それでも家に帰る時はいつだって憂鬱だ。
例え親がいなくたって、あの空間自体息が詰まりそうになる。
黙り込む俺を見つめていた真琴は、「うーん…」と考え込んだと思えば、次には「よしっ」と手を合わせた。
「じゃあ、俺もついて行こうか?」
「は?」
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