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しがらみ5
「と、とにかくさっ。歌詞作りの為にも、ちょっとギター弾いてみてもいいかっ?」
慌てたようにそう提案した真琴に、俺は渋々体を離した。
未だにこういう甘い空気に慣れないらしく、感じ取った途端すぐに逃げられてしまう。
それが面白くなくて俺は顔をしかめた。
まぁ、大人しく提案に乗ってやろう。
真琴がギターを取り出し、軽く鳴らす。
柔らかく、耳に心地いい音が鼓膜を揺らした。
文化祭の時とはまた違う、明るいが何処か一抹の寂しさも感じるメロディ。
確かに真琴の言うように青春感のある曲だと思う。
グラウンドでの様々な音や空気感を思い出す。
でも、まだ足りないんだ。
俺の、俺たちにとっての歌に、あと一歩、何かが足りない。
そこに含まれるものが光なのか闇なのか。
以前まではそれを知ることが恐ろしかった。
それでも今なら…、もしかしたら…。
「奏一ッ!」
「「…!?」」
扉を向こうから鋭い声が聞こえた。
ピタリと真琴の演奏が止まる。
面食らった顔のまま固まる真琴を見つめていたら、次には強めに扉がノックされた。
嘘だろ…。
だって今日は帰って来ないはずじゃ…。
「奏一、早く開けなさいッ。でないと勝手に開けるぞッ」
「…っ」
息が詰まった。
嫌な汗が背中を伝う。
逃れることはできないと判断した俺は、真琴の腕を掴み立ち上がった。
「真琴はクローゼットに隠れてろ」
「っ、でも…」
「いいから」
小声で指示を出し、次には扉の前まで移動した。
真琴が隠れたのを確認し、強張る手でドアノブを握る。
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