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しがらみ8
俯きそうになる顔を必死で上げる。
親父は無言で真琴を見つめていたが、次には静かに切り出した。
「どのみち低レベルな環境で音楽をすることは、奏一にとって悪影響だ」
「っ、ちょっと待てよ…ッ、俺は今…!」
「奏一は黙ってろ」
強く制され言葉に詰まった。
体が覚えているのか、ただ従うことしかできなかった昔の自分から抜け出せない。
結局俺は、あれから何も変わらないままでいるのだろうか。
「これ以上息子を巻き込んでの音楽活動はしないで欲しい。奏一もいつまでも子供のように反抗するのはやめなさい」
「…っ」
「話はそれだけだ。遅くなる前に、君は帰りなさい」
黙り込む俺たちに、親父は背を向ける。
その背中に俺は、声をかけることができなかった。
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