117 / 142

しがらみ8

俯きそうになる顔を必死で上げる。 親父は無言で真琴を見つめていたが、次には静かに切り出した。 「どのみち低レベルな環境で音楽をすることは、奏一にとって悪影響だ」 「っ、ちょっと待てよ…ッ、俺は今…!」 「奏一は黙ってろ」 強く制され言葉に詰まった。 体が覚えているのか、ただ従うことしかできなかった昔の自分から抜け出せない。 結局俺は、あれから何も変わらないままでいるのだろうか。 「これ以上息子を巻き込んでの音楽活動はしないで欲しい。奏一もいつまでも子供のように反抗するのはやめなさい」 「…っ」 「話はそれだけだ。遅くなる前に、君は帰りなさい」 黙り込む俺たちに、親父は背を向ける。 その背中に俺は、声をかけることができなかった。

ともだちにシェアしよう!