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証明

合唱コンクール当日。 市民ホールの中へと入り、席へと座る。 館内の匂いや空気感に、僅かに体が強張っていた。 こういう感覚には覚えがある。 昔、親父や母さんの演奏を聴きに何度か訪れていたのだ。 記憶とはなかなか消えないもので、その時の光景がいくつも頭に浮かんでくる。 「よう。調子どうだ?」 「っ、…ん。まぁまぁ」 声をかけられ、我に返った。 隣に座った陽介は、「なんかホールってわくわくするよなっ」などとはしゃいでいる。 そんな姿に、苦笑いを溢してしまった。 自分のクラスに設けられたスペースならどの席でもいいらしく、他の生徒も友達同士で固まっている。 きっと陽介が同じクラスでなかったら、俺は1人ポツンと座ることになっただろう。 それが嫌なわけではないが、今日のように心がざわざわしている時は1人でない方が助かった。 会話をしていないと、余計なことを考えそうになる。 それに緊張も膨れ上がってしまうだろう。 文化祭の時といい、自分は意外と緊張しいなことを知った。 「真琴たちのクラス、トップバッターだよな。あそこ一体感あって声も出てたし、優勝狙えるんじゃね?」 「1年で優勝は今までないらしいからな。もし取れたら凄いと思う」 俺は正直、今までの合唱コンクールは適当に流したり、ピアノ伴奏をすることで歌うことから逃れていた。 きっと真琴はなんでも全力で取り組むんだろう。 もしかしたらその一生懸命に歌う姿につられて、クラスがいい流れで練習に取り組めたのかもしれない。 以前、真琴のクラスの一体感のある合唱を聴いて、ふとそんなことを思った。 あいつは常に輪の中心にいる。 本人が望もうと望むまいと、真琴の存在が周りを引っ張っていくのだ。

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