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証明3

袖から見る舞台では、吹奏楽部が演奏をしている。 これが終われば、俺たちの出番だった。 グッと握る手に力を込めると、ふわりとその手が包み込まれる。 俯いていた顔を上げれば、目の前には微笑む真琴がいた。 「奏一、顔怖いよ。ほら、深呼吸して。ヒッヒッフー」 「俺は妊婦か」 悪戯っ子のように真琴が笑う。 そして俺の両手を優しく握りしめた。 その時、気付く。 真琴の手が、僅かに震えていることに。 そうだ。真琴も怖いんだ。 自分にとっての歌と、真っ向から向き合わなければならない。 それは真琴にとって、今までの歌を否定することになってしまうかもしれない。 真琴も、きっと何か大きなものと戦っている。 必死にもがいて苦しんで、その先に答えを見つけようとしている。 目の前の真琴が小さく息を吐いた。 「追い詰められてどうしようもない時は、1番心が暖かくなるものを想像するんだ」 「暖かくなる、もの…?」 「そう。気持ちが軽くなるおまじない」 暖かくなるもの。 俺にとってそれは…。 「お前だ」 「え?」 きょとんとする真琴を真っ直ぐに見つめて、思ったことをそのまま伝える。 「真琴といる時が、1番暖かい」 その途端、カァァッと真琴の顔が赤くなった。 動揺する真琴が可笑しい。 クスクス笑っていると、揶揄われたと思ったのか、真琴がその頬を膨らませた。 「おふたりさん。イチャイチャするのはそこまでですよ」 その言葉にハッとする。 顔を上げれば、立ち上がった遥先輩がニヤリと笑みを浮かべていた。 顎をしゃくる彼に促され舞台を見れば、吹奏楽部が演奏を終え、はけて行くところだった。 次は、俺たち【Reach out!】の出番だ。 会場にいるであろう両親に、俺はどれだけの思いを届けられるだろう。 口下手な俺にとって、歌は言葉以上に思いを届けられるものだ。 繋いだ真琴の手をギュッと握り返す。 そして舞台へと足を踏み出した。 「行こう」

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