127 / 142

証明5

真琴の紡ぐ歌声に、会場は盛り上がる。 生徒たちだけではなく、教師、そして保護者たちも感嘆の声を上げて、一気に引き込まれていった。 「これは驚いたな…」 会場にやって来ていた綾人は、その真琴の歌声に呆然とする。 奏一くんの話からするにただ者ではないと思っていたけど、予想を遥かに超える才能だった。 対する奏一の歌声も初めて聴いた綾人は感嘆する。 「この2人、一緒に歌うことで物凄い化学反応だ…」 互いが互いを高め合っている。 それに重なり合った時の音がいい。 なんの抵抗もなく、すっと心に入り込んでくるような音だ。 1年ほど前のある日、暗い瞳をしたその子は1人でやって来た。 学ランを来た少年は入り口で俯き立ち尽くしている。 入ることを躊躇っている彼に、俺は声をかけていた。 「ここ。座ったら?」 「っ、……はい」 一度見開かれた瞳もすぐに影がさしてしまう。 静かにカウンターに座った少年は、黙ったままテーブルを見つめていた。 「何頼む?カフェラテとかかな?」 「…いや、コーヒーで」 「ブレンドでいい?ミルクとか砂糖は?」 「いらないです」 中学生でブラックコーヒーを飲むのか。 なかなか大人びた子だな。 そんなことを思いながら用意したブレンドコーヒーを差し出す。 彼は小さくお礼を言うと、静かにカップを手にした。 そして少し口に含み、僅かに目を見張る。 「……おいしい…」 その無防備な表情は、今でも鮮明に覚えていた。 綾人にとっては、忘れられない記憶だ。 そして今、あの頃俯いてばかりいた少年が顔を上げ、前に進もうとしている。 真琴くんに出会い、必死で変わろうとしている。 「……がんばれ。奏一くん。真琴くん」 きっとこの2人なら、自分自身の歌を見つけられるはずだから。

ともだちにシェアしよう!