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証明6
歌はそのままサビへと入る。
文化祭の時のように声が出なくなるということはなかった。
大丈夫、このままいける。
声も十分過ぎるほど出せていた。
見せつけてやる。
俺は俺の意志で歌っているのだと。
真琴との歌は可能性に満ちている。
誰にも口を挟ませはしない。
この【Reach out!】の凄さを、あの2人に思い知らせてやる…!
客席で奏一の歌声を聴いていた父は、静かにその演奏を聴いていた。
低レベルだと思っていた真琴たちの実力が、予想外のものであったことに目を見張る。
確かにあれだけのことを言うだけはあった。
真琴という少年の歌声には推し量れない可能性がある。
そしてバンドの子もなかなかの技術だった。並の人間では到底できない演奏だ。
とても高校生が集まったバンドグループだとは思えない。
それは十分、認めるべきことだった。
だが、しかし…と、舞台に立つ奏一を見据え、彼は呟いた。
「……残念だな」
歌えるようになったことは認めよう。
だがそれだけだ。
この歌はまるで、虚勢を張る幼子のようにしか聴こえない。
どうだ、自分はすごいのだと力を見せつけるような雑な演奏。
そしてただ大きな声で叫んでいるだけの歌声だ。
こんなものでは、なんの証明にもなっていない。
このまま奏一が気付かないのであれば、話は終わりだ。
バンドからは、無理にでも抜けさせる。
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