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証明7

歌っている中で、何故かずっと、違和感があった。 なんだろうか。 何かが、噛み合わない。 声は出ているし、頭だってすっきりしている。 それなのに、何かが違った。 その時、不意に隣の真琴と視線が交わる。 以前の文化祭では、真琴は笑っていた。 誰よりも幸せそうに、その目を輝かせていた。 だけど今は、その光がない。 真琴が、心から楽しめていない。 ……待てよ。 違う。そうじゃない。 楽しめていないのは、俺の方だ。 証明しようとするあまりに、歌声に心がない。 ただ技術を見せつけるだけの機械的な歌になっている。 その時、ふと見た客席に、両親の姿を見つけた。 そしてその瞳に心臓がドクンと跳ねる。 その瞳には、明らかな失望の色が滲んでいた。 お前はこの程度の人間だったのかという失望の目。 ただ歌えるようになっただけの、操り人形。 呼吸が乱れる。 歌声が掠れた。 歌が乱れ始めた奏一に、会場はざわつき始める。 「どうしたんだよ、奏一…っ」 硬く拳を握り、陽介は眉を寄せた。 別の席に座る久遠も、その目をすっと細める。 だんだん、奏一の歌声に力がなくなって来た。 声量も落ちていく。 歌うことに、覇気がなくなっていく。 「駄目だ…。やめちゃ駄目だ…っ」 懇願するように、陽介は呟いた。 しかし、ついに… 奏一の歌声が消える。 「……やはりな」 歌声が真琴のみになったことに、奏一の父は低く呟いた。 母親も小さく息を吐き出す。 歌は既に2番へと突入していた。

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