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証明9

ずっと兄の姿を追って、兄の姿を探して歌っていた。 俺の歌は兄ちゃんの真似事で、以前までならそれでよかったんだ。 ここにいれば、何も傷つかない。 嫌なものから目をそらして生きていける。 だからずっと、このままでいい。 そう思っていた。 でも、今は違う。 奏一と出会って、あの文化祭での瞬間を体験して、気付かされた。 必死で前に進もうと足掻く奏一の姿に、初めての感情が芽生えた。 俺も、俺の歌を歌いたいと思った。 それに今なら、兄ちゃんに縋り付かずとも生きていけると思うから。 奏一が側にいれば、俺は何処へだって行けるはずだから。 だから、一緒に足掻こう。 その先に光があることを信じて。 遥先輩がドラムを打ち鳴らした。 振り返ればいつもと同じ笑みを浮かべた先輩が俺に頷く。 遥先輩は、いつだって俺を支えてくれた。 何かを言うわけでもないけれど、ただ黙って側にいてくれることがどれだけ有難いかを知ったんだ。 ほんと、遥先輩には敵わないな。 それに久遠先輩にも、このまま失敗したら合わせる顔がなくなっちゃう。 こんなに素晴らしい歌を作ってくれた。 兄ちゃんへの想いを俺と同様に抱えた彼は、今きっと、前に進もうとしている。 その想いに応えなくては。 久遠先輩が作り上げたこの曲で。 会場さえも飛び越えて、兄ちゃんの元まで届かせなくては。

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