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証明11

踏み出せ。そう言われた気がした。 その途端、白いもやがかかったような意識が鮮明なものになる。 自分の力を証明しようとするあまり、俺は歌を楽しむことを忘れていた。 そうじゃなかったはずだ。 俺が親父や母さんに伝えたいことは、そんなことではない。 俺自身の歌を、この【Reach out!】で奏でることの意味を証明する。 それが本当の意図だったはずだ。 やってやる。 俺の歌を、今ここでぶつけてやる。 すぅっと息を吸い込み、第一声を放つ。 先程の切羽詰まったものとは違い、余裕があり、優しささえも含んだその歌声に会場が揺れた。 「これは…」 一気に変化した奏一に、彼の両親は瞠目する。 幼い頃から聞いてきたどの歌声とも違う、自分の意思を持った力強く、そして温かな歌声。 まるで全く別の人間の歌を聞いているような感覚だった。   『気持ちが軽くなるおまじない』 真琴の本番前の言葉が、何度も頭の中をリフレインする。 『追い詰められてどうしようもない時は、1番心が暖かくなるものを想像するんだ』 俺にとってそれは、真琴だった。 そしてこの歌声は、真琴が、遥先輩が、陽介が見つけ出してくれた。 文化祭、そして今歌う曲は、久遠先輩が作り上げてくれた。 俺はみんなの支えがあって、今歌っている。 そう。俺は孤独に歌っているわけではない。 隣の真琴と目が合う。 今度はその目を輝かせて、真琴は笑っていた。 俺もつられて笑みを浮かべる。 楽しい。楽しい。 このままずっと、歌い続けたい。

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