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証明12
息子の歌声を初めて聞いた時、計り知れない可能性を感じた。
すぐに専門のトレーナーをつければ、その才能は開花し、瞬く間に名を広めていった。
自身も妻も、音楽の道で生きる人間だ。
それが楽なものではないことは十分に理解している。
それでも、やはり自分たちの子供が音楽の才能を宿しているという事実は喜ばしいことだった。
そして音楽の過酷さを知っているからこそ、しっかりとした指導者の元で完璧に育て上げてやりたかった。
そうずっと、思ってきたはずだった。
「……あなた」
隣に座る妻の声は震えていた。
普段は決して涙を見せない毅然とした女である妻だけに、さらに己の意志が揺らいでしまう。
今舞台で歌う奏一は、心の底から音楽を楽しんでいた。
紡ぎ出される音が、これまでにないほどに色鮮やかに光り輝いている。
俯き、大きく息を吐き出した。
自分も歳だろうか、視界が滲んでいたことに苦笑いが溢れる。
奏一。それがお前の望むことなのか。
お前は反抗でもなんでもなく、本当にただ心の底からその子たちと音楽がしたいのか。
まったく…。
ふと気付いたら、こんなに大きくなっていて…。
妻の手を握りしめる。
その温かな手は此方を握り返し、隣からは小さな嗚咽が聞こえていた。
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