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心から

「いやーっ、終わった終わったー!」 「マジでどうなるかと思ったぞ…。ほんと、心臓止まるかと思った…」 「まぁまぁ、終わったからいいんじゃん」 「遥先輩はなんでそう動じないんスか!」 合唱コンクールが終わり、陽介と久遠先輩とも合流した俺たちは、この後お疲れ会をしようなどとはしゃぐ集団に苦笑いを溢していた。 でも、俺の場合はまだ終わらせていない案件がある。 真琴も同じ気持ちなのだろう。いつもよりも口数が少ないように思えた。 舞台裏からロータリーへと続く廊下を歩いていると、視界の先に両親を見つけた。 緊張で体を強張らせると、不意に真琴に手を繋がれる。 それだけで勇気が湧いてくるのだから俺も単純だ。 一度真琴に頷き、しっかりとした足取りで2人の元へと歩いて行く。 目の前までつき立ち止まると、暫く無言が続いた。 張り詰めた緊張感の中、親父が口を開く。 「あの歌がお前の、答えというわけか」 静かな問いだった。 その真意は読めないままだったが、俺は躊躇いなく頷く。 「ああ、そうだよ」 母さんが小さく息を吐き出した。 その目元が少し赤くなっている気がする。 「……父さん、母さん」 2人に呼びかけると、その目が見張られた。 いつも親父と呼んでいるから、改まって昔のように呼ぶのは恥ずかしい。 それでももう、つまらない意地を張るのはやめにしたかった。 俺は心から、2人に自分の思いを理解してほしいと思っているから。 「俺、この【Reach out!】で歌うのが好きだよ」 「「…!」」 にしっと笑顔を浮かべれば、2人が目を見開く。 そして父さんがその口を僅かに緩めた。 「そんなお前の笑顔を見たのは、いつぶりだろうな…」 小さく呟いた父さんは、次には俺と目を合わせ、ゆっくりと頷く。 「分かった。奏一が思うようにやりなさい」

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