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心から3
穏やかな空気が流れる中、俺はそっと、真琴の手を繋いだ。
「…なぁ、真琴」
「んー?」
握り返される手が暖かい。
そのお座なりに巻かれたマフラーを整えてやりながら、俺は思い切って提案する。
「今から、ウチ来ないか?」
「へ?」
見開かれた真琴の目と視線がぶつかった。
自分の顔が赤くなっているのではないかと思い、さりげなくマフラーで隠す。
両親は合唱コンクールに来るために先延ばしにしていた仕事を片付けるため、出かけて行った。
こうして思うと、随分と息子思いの両親だと思う。
それを俺は煩わしさや嫌悪で遠ざけていた。
もっと素直になれていたのなら、こんなややこしいことになどならなかっただろうに。
まぁなんであれ、今家に両親はいない。
これが何を意味するのか、どうやら真琴は察したようだった。
暫くオロオロしていたが、次には恐る恐る俺の顔を見つめてくる。
真琴はやたらとこういった恋愛ごとには奥手だ。
何か思うことがあるのかは分からないが、まず自分から甘えてくることはそうそうない。
バンドの時と恋人の時は切り替えているつもりだ。
今は恋人モード。
真琴が戸惑ったって、甘い雰囲気になることは避けられない。
「真琴、だめか?」
「…っ」
俯きマフラーに顔を沈めた真琴は、やがて小さく頷いた。
俺は隠しきれない喜びに笑みを浮かびながら、その手を引き、早足で歩き始める。
空からはハラハラと雪が降り始めていた。
それが街頭に照らされ、キラキラと輝いて見えた。
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