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俺の世界の有

 飯塚と駅で別れてから、家路へと急いだ。電車の中でぼけっとしながら、ふと先ほどの飯塚との会話を思い返していた。  そう。悩みなんてものはない。ただ、こちらの世界で興味をそそる物がなくなっただけだ。自分が興味のあった物は、あっちの世界で全て手に入るのだから。  数日前も、大貴の世界で有と交わったことを思い出して、顔が自然とニヤけた。文句を言いながらも、結局は大貴の言う通りに動いてくれる有。最初に会った時から3ヶ月が過ぎていた。夢でも何でも良かった。現実の世界では半ば諦めていた有を手に入れられたことが、大貴の征服欲や、独占欲や、もちろん性欲も満たしてくれていた。それで良かった。  今日はどんなプレイしたろかな。  高まる興奮を抑えつつ、アパートの階段を駆け上がる。大貴の創った有が言った通り、大貴の世界では大貴の望むことが全て叶った。自分が食べたい物や飲みたい物もすぐに手に入った。酒をどれだけ呑んでも目覚めた時に二日酔いになることもなかった。欲しい物は心の中で願うだけで目の前に現れた。  大貴は様々なシチュエーションを想像し、思う存分楽しんだ。コスプレなんて当たり前。普段、有が絶対言わないようなセリフを言わせたり、させたり。大貴の世界は暗闇に包まれたまま殺風景だったが、それは有以外、特に常に置いておきたいような物もなかったからだった。有さえいればいい。そう思っていた。  ただ、そうは言っても、会いたい時に必ず有に会えるわけではなかった。どんなに会いたいと思っても、眠りについたまま朝を迎えることも多々あった。これはどういうことやっ、と大貴はその原因をいろいろ考えてみたのだが、ある1つの法則に気が付いた。  うやら有と会えるのは、現実の世界での有と会えない日に限るということだった。  それが判明してから、大貴は有を避けるようになった。講義で一緒の時は泣く泣く諦めたが、関わり合いのない日は、偶然バッタリ有に会わないように再三の注意を払っていた。  今日は有と一緒の講義がない日だったので、できれば飯塚の誘いを振り切ってすぐにでも帰ってきたかったのだ。  そこでふと、飯塚が誘ってきたのはもしかしたら有に頼まれたのかもしれないなと思い付いた。でも、そんなことも今はもうどうでもいい。  玄関で素早く靴を脱ぎ、競歩にも勝るようなスピードで浴室へと向かう。一応、いつもシャワーは浴びるようにしていた。向こうでシャワーも浴びられるのだが、その時間さえも惜しかった。そんな時間があるのなら、有とできる限り戯れていたかった。  浴槽から出ると、下着姿でいそいそと寝室へ向かう。ベッドに素早く潜り込み、遠足前夜の子供のようにワクワクしながら目を閉じた。あっという間に、大貴に暗闇が訪れた。

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