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対峙
すれ違う知り合いの学生たちに挨拶をしながら廊下を進む。あれから更に何週間か過ぎていた。大貴はもうすっかりこちらの世界には興味がなくなっていた。しかし、こちらにいる間に大貴の身になにかあれば、もうあっちの世界に行けないかもしれない。それだけは避けたかった。
大貴は自分が倒れない程度に食事をし、友達にやいやい言われないように講義には集中した。ただ、プレイベートでの付き合いはほぼ皆無となった。
向こうの有と会えない日だと分かっていても、他の誰かと会ったり、どこか行ったりする気力も起きず、大学やバイトが終われば真っ直ぐに家に帰った。テレビを上の空で見ながら、今度あっちの有に会えたら何して遊ぼうかとそればかり考えていた。
今日は有との講義がない日だった。今夜は大貴の有に会える。そう思うと大貴の心は自然と浮き足だった。機嫌良く廊下を進んで、次の講義へと向かおうとしたその時。
前方から、よく知った顔が歩いてくるのが遠目に見えた。
やばっ。
今日は絶対に会いたくなかったのに。大貴は咄嗟にどこかに入って隠れようとキョロキョロと周りを見回すが、丁度さっと入れる教室の出入り口が近くになかった。運悪く、避難場所になりそうなトイレも遙か遠く、会いたくないその相手の真横に位置していた。
どうしようかと焦っていると。
「ヒロっ!!」
その相手に遠くから凄い剣幕で叫ばれた。
ちらっとそちらの方を伺うと、有がもの凄い形相でこちらに向かって突進してくるのが見えた。
うわわわわっ。なにあれっ。なんであんな顔してるん??俺、なんかした??
明らかに有は何か大貴に対して腹を立てているようだった。有は大貴の目の前までくると、がっしりと大貴の腕を掴んだ。
「ちょお、来いや」
「は? え? なんで?」
「ええからっ!!」
有は叫ぶように答えて、有無を言わせず大貴の腕を引っ張って歩き出した。大貴はされるがまま有の後に続いた。
「入れ」
そこは、有が参加しているサッカーのサークルが使っている小さな部屋だった。中には誰もいない。
最近、有を避けることに慣れてきて油断していた自分を呪った。これできっと、今夜はあっちの有には会えない。
有が扉を閉めて、鍵をかけた。
うわっ、俺、しばかれるんやろか??
と警戒しながらこちらを睨み付けている有を見る。現実の有を久しぶりに間近で見た。
「どういうつもりやねん」
「は?」
有の唐突な質問が咄嗟に理解できず、大貴は怪訝な顔で有を見た。
「は? やあらへん。どういうつもりや言うてんねん」
「何が?」
「だから!! お前、俺になんか不満でもあるんかっ!」
「不満……?」
「そうやっ、不満やっ。俺のこと、めっちゃ避けてるやんかっ!! 最初は気にせんようにしとったけどなぁ。さすがに腹立ってきたわっ!」
「……気づいてたん?」
「当たり前やろっ!! 俺がおったらわざとらしく逃げるやんかっ!! 飯塚たちやって気づいとるわっ!」
「…………」
「俺と講義が被らん時は特にそうやろ。さっきみたいに、俺に会いそうになると全力で避けるやんかっ。俺が知らんとでも思うたん?? 何年お前と一緒におると思うてんねんっ!! 不満があるんやったらなぁ、面と向かって言ったらどうなん?」
「別に……不満はないよ」
「じゃあ、なんやねんっ!!」
「まあ、ちょお落ち着いたら? そんなゴリラみたいに吠えられても、冷静に話できへんやろ?」
「…………」
そう言うと、有はぐっと言葉を抑えて黙った。クリクリの大きな瞳でじっと大貴を見上げてきた。ああ、黙ると可愛いねんけどな、この顔。そう思いながら有を見返す。
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