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2人だけの世界

 それから、どのくらい経ったのか、もう大貴には時間の感覚がなかった。有と2人だけの世界。大貴が生み出した洒脱なマンションの中で、2人で暮らす。好きな物を食べ、好きな物を飲む。不思議と眠気は起きなかった。寝たいと思えば寝ることもできたが、寝たくなければいつまででも起きていられた。  毎日、毎日、体力の限界まで有と交わった。どれだけ抱いても、また有を抱きたくなった。まるで喉の渇きがいつまでも満たされず、ずっと続くかのように。  最初は、この生活がとても心地よかった。文句は言いつつも自分の言うことを何でも聞いてくれる有に。自分の征服欲を常に満たしてくれる有に。何でも大貴の思い通りになる。こんな最高な環境はない。  なのに。  いつからか、大貴の中に落ち着かない何かが生まれた。何か、体の一部がなくなってしまったかのような、欠落感。喪失感。あるいは、物足りなさ、なのかもしれない。そういった感覚が少しずつだが、大貴の思考を支配するようになっていった。それを埋めようと、もうダメや、と思うまで有と抱き合うが、なぜか満たされることはなかった。  なぜだろう。自分の望み通りの世界なのに。 「ちょお、ヒロっ。頼むっ。もうあっちに帰ってくれへんかな」 「はあ?? また、それかっ。お前、そのセリフ、これで何回目やねんっ」 「いやもう、ほんま体力持たへん。毎日、毎日、ほとんどヤるだけの生活、辛いねんてぇ」  今日もいつも通りに朝から(朝という概念が存在するのなら)有と交わって、休憩がてら大きく快適なソファの上で寛いでいた時だった。有がソファの上に正座して頭を下げてきた。この生活が始まって、何度か見る光景だった。 「お前、俺が戻ったらもう俺の欲食べられへんのやろ? それでもええの??」 「俺のことは心配してくれんでもええ。他当たるから」 「なんやねんっ。そんなあっさりなん? 俺らってそんな簡単に終わるような関係なん?」 「まあ……」 「……俺、今、普通に傷ついたんやけど……」  いくら利害関係で成り立っている関係だとしても、一応まあまあの時間を共に過ごしてきたのだから情ぐらい沸いているだろうと思いきや、あっさりと突き放されて大貴は結構なダメージを食らった。  大貴はその問いかけの意味が分からず、眉を潜めて有を見た。有はじっと大貴の顔を伺っていたが、そうか、まだ気づいてへんねんな、と呟いた。 「やから、何をやねん」 「俺が教えてもしゃーないねん。お前が自分で気づいて、応えんと」  そう言って有は口を閉じてしまった。ふい、と立ち上がって、キッチンへと向かおうとするそのそっけない態度に、大貴は微かな苛立ちを覚えた。心の中で有に服従させたい気持ちが芽生える。その途端。キッチンに行きかけた有が足を止めて振り返った。呆れたような顔で大貴を見る。 「ほんまに……お前は……」  そう言いながら、有が大貴に近付いてきた。そのまま大貴の膝の上に跨がって、大貴を見下ろす。大貴はその有の瞳を見つめ返して、意地悪く笑った。

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