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再会

 大貴はゆっくりと有との繋がりを絶った。ソファの上の有は、大貴の様子をじっと見つめながら起き上がった。 「ヒロ?」  その無機質な響きに、大貴ははっとして、目の前の有をじっと見つめた。  違う。有じゃない。有の声じゃない。分かってはいたけど。偽物でも満足できるなんて思ったけれど。こんなにも違うなんて。  突然、現実の世界での有との色々な思い出が頭をよぎった。あんなに反りが合わないと思っていたのに。話すらほとんどしなくなってしまったのに。今、頭の中に思い出されるのは、笑顔で笑い合う有との思い出ばかりだった。  会いたい。  現実の世界の、本物の有に。自分の想いが伝わらなくてもいい。自分のものにならなくてもいい。ただ、有の心からの、大貴が好きだった、あの笑顔の有に会いたい。  有。  心の中で有の名前を強く呼んだ。次の瞬間。今まであった、マンションの一室が消えた。ソファも。テレビも。何もかも。再び暗闇が大貴を包んだ。裸だった大貴は、最初にこの世界に来た時と同じ、パジャマ姿になっていた。残ったのは。自分自身と、大貴の前に立っている大貴が創った有だけだった。  その有も最初に会った時と同じ、Tシャツとジーンズ姿になって、じっと大貴を見ていた。 「やっと、気づいたん?」 「……え?」 「あっちの俺の声。ずっとお前のこと呼んでたで」 「…………」 「お前はこっちの世界に来たことが正解やと勘違いしとったみたいやけど。結局は、自分の本当の気持ちに蓋しとっただけやな」 「……なんやねん、それ……」 「お前やって、感じとったやろ? 馬鹿みたいに俺とヤりまくっても、なんかスッキリせえへんって」 「…………」 「それを認めたくないんか知らんけど、ヤられまくって、俺の足腰ガタガタや」 「いや、だってお前、実体ないねんやろ? なんで、体にガタくんねん」 「こっちやってなぁ、タダで欲貰うとるわけちゃうねん。かなりのエネルギー使うて、お前の望むもんを色々出してんねん」  お前の場合、精神的にもかなりパワー使うたわ、と疲れ切ったような顔をして有が、はあっ、と溜息を吐いた。それから、ちらっと大貴を見て再び口を開いた。 「ヒロは、俺じゃ満足できひんよ」 「……そんなことない」 「そんなことあんねん。お前の求めてるもんははっきりし過ぎとって、この世界でも代わりがきかへん」 「…………」 「さっき、はっきり分かったやろ? 俺はあっちの俺とはちゃうって」  さっきの、無機質のように響いた有の声を思い出す。 「俺はしょせん、お前の創った有や。お前の言う通りにはできても、お前の望む有にはなれへん」 「…………」 「他の奴は代わりでも誤魔化しきいたんやけどなぁ。ヒロはあかん。現実の俺を好き過ぎとって上手くいかへん」 「俺、そんな好き過ぎちゃうやろ?」 「好き過ぎとるで。こっちが引くぐらいにな」 「……お前に言われたないわ、何か……」 「やけど、さっき求めとったやん。俺とヤりながら」 「……は?」 「あっちの声が聞こえて、めっちゃ求めとったやん」 「…………」 「会いたい思うてたやん」 「それは……」  大貴は何も言い返せず黙った。  その大貴の様子をじっと見ていた有が、ふっと笑った。 「お前はラッキーや。ほんまはしたらあかんのやけど。今日は特別出血大サービスの日やで」 「は?」  そう有が言って、大貴の後ろへ目を向けた。大貴は怪訝に思いつつも有の視線を追って振り返る。じっと暗闇に目を凝らして数秒後、そこから浮かび上がってきた人影を認めて、大貴は言葉を失った。  その人影は探るようにゆっくりと暗闇の中から現れた。大貴の姿を見た途端、びくりと足を止めた。 「ヒロ……?」  それは、有だった。白地のTシャツに短パンを履いていた。大貴の姿を見て、驚いたように目を見開いたまま動かなかった。それから大貴の後ろに立つもう1人の有に目を向け、口を開けて完全に固まった。

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