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引かれるほどの欲望
「有……どうして……」
大貴には分かる。この有は、現実世界から来た有だ。なぜその有が、大貴のこの世界にいるのか。
現実世界の有は、しばらくショックで声も出せないようだったが、やがて絞り出すように大貴へと答えた。
「分からへん……。夜、寝てて……ヒロの声が聞こえた気がしてん……」
「……俺の声?」
「おん……。ヒロが、俺の声に、応える声」
「有の声?」
「……ヒロを呼ぶ声」
ああ。やっぱり。あの声は、本当にこの有が発したものだったのだ。
「ヒロの声が聞こえた気がして、ヒロに会いたいと思うてん。そしたら……気づいたら、真っ暗ん中に立っとった」
それは、大貴の有を呼ぶ声が有をこの世界に導いたということだろうか。大貴が強く、会いたいと願ったから。そして。有も会いたいと思ってくれたから。
「なあ、ヒロ」
「何?」
「あいつ、誰やねん」
「ああ……あれは……」
大貴はなんと説明していいか分からず、口ごもる。すると、この世界の有がにっこり笑顔で代わりに答えた。
「どうもー。俺、こっちの世界の有ですー。ヒロのめっちゃ引くぐらいの強い欲望から生まれてんでー」
「は?」
現実世界の有が眉を潜めた。
「欲望?」
「おん。ここはなぁ、ヒロが創った世界やで。ヒロが望んだもんが手に入る世界やねん。で、俺は、ヒロが死ぬほど欲しいと思うてた物ナンバーワンやってん」
「ちょっ、お前、何言うてんねんっ!!」
大貴が横から慌てて口を挟む。大貴の世界の有はキョトンとした顔をして、大貴を見た。
「何って事実やんか。今更隠してもしゃーないで、ヒロ。お前が会いたい思うたから、そっちの有さんはこっちに飛んできてもうてんで。ちゅーか、俺もちょっと手助けしたけどな。これどうやって説明すんねん」
「やけど、俺の一番デリケートなところ、いきなり最初で暴露することないやろっ!!」
「デリケートって……。あんな乱暴に毎日、毎日、暴君のように俺を抱きまくって、デリケートなんて言葉よう使えるな」
「毎日……? 抱きまくる……?」
現実世界の有がその言葉に反応した。大貴は焦ってその有へ言い訳をしようと向き直った。
「いや、有、その、それは、なんちゅーか、こっちの有が俺の言うこと聞いてくれるから、その、好きにさせてもろた言うか……夢っ、そう、夢やったからなっ」
「お前……俺に何したん?」
「……それは……」
「もう、ほんま変態行為極まる暴君ぶりやってん。コスプレや言葉責めは当たり前やし。縄使うのなん、しょっちゅうやったしなぁ。ハチミツに味しめて、その後も、生クリームやら、あんかけやら、色々なもんで攻められたし。後ろから前から休みもなく突かれまくって、ほんま大変やってんで」
「ちょっ……それ言うなやっ」
「縄……ハチミツ……」
現実世界の有はぼそりと呟いて、まるで変質者でも見るような目つきで大貴をじっと見た。
うわわっ。俺、完全に有に引かれてるやんっ。
「それでなぁ、そっちの有さん。ヒロ連れて帰って欲しいんやけど」
「は? 俺が? なんでやねん」
「いや、もうこっちでは面倒見きれへん。我儘過ぎて」
「いや、俺もこんな変態野郎は面倒見れへん」
「いやいや、やけど、ヒロが求めてんのはそっちの有さんやし」
「求められても応えられるかどうかは別問題やし」
大貴は目の前で繰り広げられる自分の押し付け合いに、普通に傷ついていた。
俺、いじけてもええかな。
心の中で寂しく呟いた。
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