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あの時
大貴もあの時のことは忘れるはずもなかった。現実の世界で再び目を覚ました時。大貴の世界では時間の感覚がなくなるくらい、長い時間が経ったように思っていたのに。現実の世界では、大貴があの世界に留まることを決めた夜のままで、5時間ほど経っていただけだった。
目を覚ましてすぐ、大貴はテーブルに置きっ放しになっていた携帯を手にした。頭より先に体が動いた。登録したままでほとんど使ったこともない、有の携帯番号を呼び出して、電話をかけた。ワンコールも終わらない内に、相手が電話に出た。
『……はい』
『…………』
なんと話を始めたら良いのか分からず、黙る。電話の向こう側でも有が戸惑っているのが伝わってきた。
なんとか勇気を絞り出し、有の名前を呼んだ。
『有……』
『…………』
数秒の沈黙の後、有が呟いた。
『ヒロ……』
『……ん?』
『会いたい』
『……今、行くわ』
それで、十分だった。有は覚えていた。後から聞いたところによると、やはりあの大貴の創った有が言った通り、夢としてあの時のことを経験していたらしい。しかし、有はあれはただの夢じゃないと、起きてすぐ感じたという。直後に大貴からの電話が来て、それは確信と変わったらしい。
急いで着替え、要る物だけ引っ掴んでアパートを出た。有の実家まで自転車で急いだ。
有の家に着き、玄関でインターホンを押すと直ぐに扉が開いた。有が顔を出す。
『入って』
『……おん』
有の両親に挨拶してから有の部屋へと入る。有と見つめ合った。有は、あの世界で会った時と同じ、白い無地のTシャツと短パンを着ていた。言葉はもう必要なかった。
その後、2人はもつれ合いながら、夢中で抱き合った。有の家族が気が付くかもしれないなんて気にする余裕もなかった。
あの時の、有の体の反応も、声も、吐き出される言葉も、笑顔も、汗も、痛みを堪える表情も、全て初めて経験することだった。大貴の創造した有とは比べものにならないくらい、大貴の予想を超える、最高の夜だった。
やはり有は、自分の思い通りになんかならない。いつも大貴をハラハラさせるし、ドキドキさせるし、時には苛々もさせる。でも。だからこそ、有には永久に飽きない。
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