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第38話

ひどい顔をシャワーで洗い流して、次の日の朝から晴天の中、悠とボール遊びをしに公園にいった。 黒瀬は一日仕事でおらず、少し懐いた悠を相手に朝食を取り、最近好きなものや行きたい所を訊いて和やかな食事を楽しんだ。 公園で遊んだ後はどこかでランチを食べて、休憩し、余裕があったらホテルのプールで泳ぐ予定だ。意外と体力のある5歳のおかげで朝から一日ハードスケジュールだ。 ボールを追いながら、笑顔を張り付かせて体力を絞って走りながら蒼の事を考える。 蒼が好きだった。 本当に大切にしたいし、沢山の言葉を懸命に選んでは伝えるように努力した。 植え付けられたトラウマだけがそれを阻めて、苦しめてただけだ。 別に朝倉と食事したり、観光へ案内しても良かった。黒瀬と付き合っていた時は、見て見ぬ振りしてたが、自分が傷つくのを分かっていても相手とデートの時は予定を話してくれた。 それが良かったといえば良くないが、黙って自分はそれを受け入れて見過ごしていた。 だから嘘をつかれて、逢うならばどうしたらよいのか分からなかった。 そしてこんなに自分が感情を吐き出すことなんてなかった。 その結果、蒼を傷つけた気がする。 恐らく、もう二度と会わない。 甘く低い蕩ける声も二度と聞く事はない。 でも遠く離れた土地で、別れを言えてよかった。 そもそもセックスもせず、会話も無い蒼の態度にもっと早く気づくべきだった。 隠していた部分に蓋をして逃げてばかりで、向き合えずにいた自分が悪い。 ちゃんと別れただけでも結果は良好と考えるしかない。 それにあんなに溢れるように、自分を愛してくれただけでも感謝するしかない。 『皐月、別れたくない。』 ふるふると首を振り、その言葉を言う蒼が嬉しかった。それだけで十分だ。 距離を置いても、どうせ別れる。 電話も少なくなり、あとで真実を突きつけられるのは辛いし、知りたくもない。 とにかく、やっと、終止符をつけられた気がする。 自分は見通しが立たないが、きっと蒼にもこれから新しいパートナーが出来る。 それを祝福するしかない。 珍しく爽やかな晴天の中、悠がまたボールを投げると予想外に高く飛んでいき、汗をかきながら走りに行った。

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