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第24話

ボストンへやっと到着した。 長いフライトは黒瀬のおかげで、快適で素晴らしかった。足も伸ばせて、機内食も美味しくお酒も嗜んで、黒瀬とは近況を適当に報告し合って終わった。そして久しぶりに札幌で出逢った時の蒼を夢みて、初々しい頃を思い出しては早く逢いたい気持ちを募らせた。 早く逢って抱き合いたい、蒼とずっと一緒にいたい 珍しくセンチメタルな気分になりながら、到着を待ち望んでは思いを馳せた。 様々な手続きを終えてひと段落すると、黒瀬は悠を連れて近寄ってきた。 「お疲れ様。君がいて、有意義な時間を過ごせたよ。ありがとう。」 そう言うと、頬に軽くキスをして笑った。 あまりに唐突で、そして疲れていたせいか不意を突かれた気分だった。 「……っ…!」 きっと睨んで、頬を拭うと黒瀬はその反応が面白かったようで、またにこにこと微笑んで名刺を一枚ポケットに入れた。 「ボストンで会えたら、会おう。楽しみにしてるよ。さて、彼が来る前に退散するね。」 そう言って悠を連れて歩きながら、手を振り人混みに消えた。 強引だが根は優しい所は変わらず、色々気遣ってくれた事に感謝した。 何か礼をしようとしたが、それを元に面倒くさい事になりそうなので、日本に戻って落ち着いた時に考えようと思い直した。 日本と違い、空港の中は様々な人種が行き交い賑やかだった。 広く近代的な建物を目新しく、海外へやってきた雰囲気を肌で感じた。 ここで数週間過ごすという実感がなんとく感じ、僅かな興奮と楽しみが湧き上がりそうだった。 「……皐月っ…!」 懐かしい声が後ろから聞こえ、振り返った。 背が高くハンサムな蒼がサングラスをして手を振っていた。 白いTシャツにジーンズパンツを着ていて、遠目から見てもラフな格好なのに、周囲の視線を集めた。心なしか元気なさそうに見えたが、変わらない笑顔で微笑んでいた。 「…蒼っ!」 大きな荷物を転がしながら、駆け寄ると抱き寄せられた。 「疲れてない?大丈夫?」 心配そうな声で引き寄せると髪にキスされ、胸が高鳴った。 蒼はなんでもさりげなくこなしてしまう。 「うん、意外と広くて快適だった。」 「……あれ、ビジネスにしたの?良かった、皐月エコノミーのままかと思って、足が心配だったんだ。」 蒼はほっと胸を撫で下ろした。 そう言われて、ファーストクラスで来たことを言うべきか内心迷った。 せっかくの旅行で、初日から嘘をつくのも良くない。 「……………実は、黒瀬と一緒になっちゃって、強引に席を交換させられて………ファーストクラスで一緒に来たんだ。」 躊躇ったが、嘘をついても嫌なので正直に話した。 語弊はあるかもしれないが、やましい事はなく、隠す必要もなかった。 「そっか………。さっき黒瀬さん達と話してるの見えて、なんとなくそんな気がしたんだ。うん、話してくれてありがとう。」 蒼は普段と変わらない笑顔で微笑むと、荷物を引いた。 怒らせてしまったと思ったが、至ってそんな雰囲気もなく蒼は穏やかな表情で 「随分軽いね。」 「……あ、うん、PCと服と本ぐらいだよ。」 「そっか。」 「車で来たから、駐車場まで歩ける?」 「………あ、うん」 そう言いながら、蒼は早足で前を歩きどんどんと人混みを分けながら前を歩いた。 特に会話もなく、小さくなっていく背中に追いつくのがやっとで、自分も早足で急いでついていった。

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