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第25話

蒼の車は大型のSUVでシンプルかつ存在感のあるデザインだった。車内は広く、座り心地も良く、流れる対向車のライトと振動で長時間フライトで疲労した自分は眠ってしまいそうになる。 そしてボストンの街並みは緑が多く、建物も美しく夜は綺麗にライトアップされており、車窓から見ているだけでも新鮮で楽しかった。蒼のアパートは中心部にあるらしく、空港からもダウンタウンは至近距離にあり、すぐに到着しそうだった。 「………フライト、楽しかった?」 蒼がサングラスをかけて前を向いて、運転しながら穏やかな声で訊いてきた。その横顔は端正整っており、俳優のようで見惚れてしまいそうになる。 Tシャツからは分厚い胸板と、逞しく程よい筋肉がついた腕が横から見えた。 「うん、黒瀬が下らない冗談ばかり言って、楽しかったよ。学生の時の話をしたりして、懐かしかったかな。」 フライト中の黒瀬の様子を思い出して、目を細めた。 黒瀬と付き合った時に行った場所や、お互いの好きな食べ物など確かめ合うように話した。 懐かしく、苦い思い出が少し消化されていくようで、それはそれで楽しかった。 本当は蒼の夢ばかり見て、早く逢いたかったと言えばいいのだが、気恥ずかしくてどうしてもそれは言えなかった。 「………そう。」 「黒瀬の子供が可愛くて、名前は悠君て言うんだ。お利口さんでびっくりしたよ。」 「子供もいるんだね。奥さんは?」 はっと自分がどんどん墓穴を掘ってる事に気づいた。 だが嘘をつくわけにもいかず、前を見て安全運転を心がける蒼を前に正直になると決めていた。 「…………奥さんは離婚したみたいなんだ。今はバツイチで、旅行と兼ねて仕事で今回こっちに来たそうだよ。」 「そうなんだ。それは大変だね。」 蒼は短く呟いて、そこで会話は終了した。 二人の間には知らない音楽が流れ、その時はお互い疲れているせいだと思った。蒼も忙しい合間を縫って、仕事終わりに迎えに来てくれたのだ、疲れてるに違いない。 横目で無言の蒼を眺めるが、やはり表情は読み取れず、じっと横で流れる光景を眺めていた。 明日から蒼は休暇を取っているので、ゆっくり過ごせればいい。 横目で蒼を見ながら、久しぶり逢えた自分はわくわくと気持ちが高揚していた。 そう思いながらも自分は、蒼の冷たい態度に違和感を感じ、嫌な予感がした。

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