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第45話

――――蒼、恋人を作りなよ。』 冷淡な皐月の声が耳に響き、その言葉だけが頭に残った。これから出勤なのに、気分は下がり最悪だった。 電話もメールも返信はなく、なしの礫だ。 何故傍にいる時に大事にしなかったんだろうと、何度も後悔したが今の電話はショックだった。 自分がどんなに皐月に冷淡に接しても、皐月は笑いながら返した。逆の立場になり分かったが、こんなにもつらいとは思ってもいなかった。 躰だけの関係を求めた時は皐月に酷い言葉で責めても、刺された足をゆっくり運びながら自分の所に逢いにくる皐月が愛しかった。 その健気な皐月から気持ちを閉じられると、完全に終わりの気がした。どんなに酷い事をしても許してくれた皐月を怒らせた。その怒りは強固で、なかなか鎮まらないのがよく分かった。 逢いたい。 逢ってちゃんと謝りたい あと1週間働けば、返上した休暇も戻ってくる。日本へのチケットは押さえおり、何が何でも皐月に逢いたかった。そして嘘をついて傷つけた事を詫びたい。 このまま二人の関係を終わらせたくない。自分のくだらない嫉妬心と離れた距離のせいで、また皐月を苦しめてしまった。気持ちを抑えたばかりに連絡が少なくなり、会話が減った。メールでも良いから毎日なにかしら送れば違ったはずだ。朝倉の事を誤解してるなら、やはり事前に話しておけば良い。離れた距離の分、もっと皐月に向き合って愛を伝えれば良かったと後悔した。 大事にすると誓ったのに、自分は本当に馬鹿だ。 あと1週間、それまで、なんとか懸命に働き、忙しい毎日を終わらせなければならない。 皐月の事が好きだ。 愛してる。 やっと傍にいれるようになったのに、どうして易々と手離せるだろうか。許してくれなくてもいい。まだ皐月の気持ちに望みがあるなら、賭けたい。 蒼は祈るような気持ちで、ジャケットに袖を通してた。

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