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第三話 過ちは繰り返される③
そして、その日はやってきた。
朝からタクマは調子が悪そうだった。
私は単に、環境が変わったせいで身体が疲れているのだと判断した。
タクマは「なんだか熱っぽい」と言って、目も虚ろだったから、私は今日は家事をせずに寝ているよう言いつけて、仕事へ行った。
仕事中、タクマのことが心配で仕方がなかった。
苦しんでいないだろうか。今日はできるだけ早く帰ろう。そんな考えばかりが頭を巡った。
毎日のようにやって来る常連のクレーマーに「いい加減にしろよクソが」とうっかり悪態をついてしまったのもそのせいだ。
クレーマーはますます怒り狂ったが、私はその対応を上司に任せて職場を後にした。普段真面目に働いてやってるのだから、これくらい許されるはずだ。
帰り道で、タクマのことばかり考えた。熱に浮かされた瞳を思い出すとぞくぞくして、自分はやはり変態なのではないかと思った。何にせよ、今日一晩はタクマの様子を見てやらなければ。
私はいつも通りに家のドアを開けた。
そこまでは良かった。そこまでの記憶ははっきり残っている。問題は足を踏み入れたその先にあった。
「た」
だいま、と続けるつもりだった。しかしそれはできなかった。家の中に充満する濃厚な甘い香りが、一瞬にして私の思考を奪ったからだ。
「……っ!」
くらくらと目眩がするほどの強い香り。それは強烈だったが、同時に嗅いだ覚えのあるものでもあった。
——タクマ。タクマの香りだ。
普段の香りを煮詰めて更に甘くしたような、それ。私は朦朧としながらタクマのいる寝室へ向かった。寝室に近付くにつれ、どんどん香りは濃くなって行った。
ノックもせずにドアを開けた。そしてまた溢れ出す香り。腰が抜けてしまいそうなほど、その香りは私の頭を揺さぶった。しかし、その先にタクマはいた。
「オ、オズ……?」
「タクマ」
「ごめん、おれ、いま、変で……っ」
タクマはベッドの上で身体を丸め、震えていた。朝に掛けてやった布は床に蹴落とされ、私が見ている前でタクマはもがき苦しんでいた。頰を紅潮させ、息を乱し、涙で潤んだ瞳で私を見る。
「あ、あ……、ごめ、み、見ないで、」
「…………」
タクマは自慰をしていた。
私が目の前にいるにも関わらず、震えた手で勃ち上がったソレを扱いていた。既にもう何度も達したのだろう。服も敷布もぐしょぐしょに汚れていた。
「あぁ……止まんない……っ、なんで、オズ、」
「……タクマ、」
「ん、っは、ぁ、……オズ、オズ、たすけて、」
タクマの唇の端から涎が垂れた。
もったいない。
なぜか、そう思った。
次の瞬間、私はタクマに覆い被さり、涎を舐めとっていた。他人の涎を舐めるなんて初めてだったが、タクマのものだと思うと途端に下肢が張り詰めた。正常な思考を奪うほどの、むせ返るような香り。
「タクマ」
「あっ、ぁ、オズ、」
びくびくと跳ねるタクマの身体を押さえつけながら、私はタクマの服をたくし上げ、肌を撫で上げた。なめらかな感触にぞくぞくする。
かつてないほどの興奮だった。
私を呼ぶ唇を塞いで、柔らかい舌に自分のものを絡めると、もう何も考えられなくなった。
——これは、私のモノだ。
——隅々まで食い尽くさなければ。
タクマの身体の上に跨り、私はタクマの唇を貪った。
甘い。甘くてとろけそうだ。
恍惚感に身を任せ、タクマの服を剥ぎ取っていく。じっとりと汗ばんだ肌に唇を這わせると、タクマはそのたびに身を震わせて声を上げた。その声にますます欲情した。
「タクマ、タクマ」
「あ、っあ、あ」
ぐっしょりと濡れた雄をタクマの手ごと握り込んでしごいてやれば、タクマはうっとりと目を閉じた。その表情にたまらなくなってまた口づけをする。
「オズ、あ、なんで、なんで……」
「タクマ、いいから私を見ろ」
「ん、はっ、ぁ……たすけて、ここ、くるしい……っ!」
手を取って導かれた先は、タクマの秘所だった。男のそんなところなんて触れたことがない。しかしタクマのそこはぐっしょりと濡れそぼっていて、指で窄まりを軽く押すと、物欲しそうにひくついた。ごくりと喉が鳴る。
——ああそうだ、ここで繋がるのだ。
——痛くならないよう、ほぐしてやらないと。
それが当然のような気がして私は何の躊躇いもなくソコへ指を侵入させた。
つぷり、と無防備な音とともに指が飲み込まれていく。タクマのナカはぐしょぐしょで、待ちわびていたように異物を奥へと導いていく。
「あぁっ、あ、あ!」
それは悦びの声だった。タクマは腰を揺らめかせて、明らかに快楽に酔っている。私の指を挿れられたことで、こんな風に乱れているのだと思うとたまなかった。
ちゅこちゅこと抜き差しをすれば、タクマはますます蕩けた表情で声を漏らした。途中、腹側で物欲しげに膨らむ箇所を刺激すると、タクマはびくびくと震えて吐精する。屹立には触れていないのに、だ。
白濁を吐き出した瞬間、タクマの香りはより一層強くなり私の脳を殴りつけた。
「っ、なんで、あ、足りない、たりないよっ……!」
たしかに快感を拾っているはずなのに、タクマは満たされないようで、そしてその事実に混乱していた。焦茶色の丸い目のまなじりから涙がはらはらと落ちる。秘所を明け渡しているという事実に、タクマも、そして私も疑問すら抱かなかった。
指を埋めたソコは絶えず戦慄いて蜜を零している。欲しがっているのだ。容赦なく暴かれることを、タクマの身体は望んでいる。
「タクマ」
「オズ、助けて、たすけて」
完全に理性を失ったタクマは、両脚を拡げ私の身体を挟み込んだ。私のいきり立った雄が秘所に擦れると、焦れたように「たすけて」と繰り返し身体を揺する。
興奮のあまり、私は言葉すら出なかった。本能が、目の前の獲物を喰らいつくせと告げている。繋がり、抉り、奥の奥に種を付けろ。ソレはお前のものだ。お前だけの印を付けてやれ。頭のなかの自分がそう喚いている。通常の私なら陥りようのない思考だった。
「タクマ、いいな」
先走りの溢れる亀頭をソコに擦り付けるだけで達してしまいそうだった。早く、早く繋がらなければ。口の端からだらしなく涎が垂れた。目の前にぶら下げられたご馳走は、どんなものやりも魅力的に見える。
「あァッ!あっ!ひ、ひぁッ……!」
「…………ッ!」
ぐ、と割り開き力を込めただけで、タクマは簡単に私を受け入れた。まるでそうなることが当然だったかのように、くぷくぷと柔らかな肉壁が私の雄を包み込む。
「う、ふぅっ、すごい、ああ、これ、すごいっ……!」
タクマは与えられた雄の感触に酔い、私の身体にしがみついた。はあはあと息を乱し、健気に腰を押しつけてくる姿はたまらなく煽情的だった。抱かれたい。暴いて欲しい。全身がそう叫んでいる。
「あぁっ!あ、あ、オズ、んんっ、オズッ……!」
「はっ、タクマ、タクマ……!」
タクマの身体を押さえつけて、私はがむしゃらに腰を打ち付けた。気遣いも何もあったものじゃない。肉と肉がぶつかり合う音を響かせながら、私はタクマと視線を絡ませ合い、その身体を貪っていた。
想像を絶する快感だった。抽出のたびにタクマの秘所からは蜜を溢れ、私の雄に従順なかたちになっていく。吸い付き、甘え、奥をより一層濡らして欲しいのだと、そう言っている。
「タクマ、出すぞ……ナカに出すからな……ッ!」
「ん、んっ、オズ……っ、ああぁッ……!」
「……っ!」
タクマの腰を掴み、叩きつけるように奥に吐精する。今度こそ自分のものになった、という妙な満足感が私を支配した。
タクマは恍惚の表情を浮かべながら、身体を跳ねさせて甘い吐息を漏らした。その瞬間、また香りが強くなる。
私は、自分がまた煽られていくのを感じていた。
それから先の記憶は、ほとんどない。
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