13 / 30

第五話 下手な言い訳よりは③

「……わぁ、」  私が四つ足で現れると、タクマは立ち上がって目を輝かせた。  照れ臭くて視線を逸らしたが、顔のすぐ前にタクマが座り込んだものだから、自然と目が合ってしまう。  タクマは感激していた。  先ほどまでの仏頂面はどこへやら、子どものように頰を緩ませて私を見つめている。 「すごい……すごいな、オズ。本当に虎なんだな……」 「……がう」 「……虎になると、喋れないんだ?」 「ぐる」 「はは、なんかかわいい」  タクマは楽しげに笑うと、突然私の首に両腕を回してきた。  驚いて全身の毛がざわざわと蠢いたが、タクマはそんなことには気付かない様子で「意外とふわふわなんだな」と言いながら頬ずりをする。  私の心臓はまた不整脈を起こしたけれど、首にぶら下がるタクマを跳ね飛ばすわけにもいかずじっと耐えた。  私が獣の姿をしているからか、タクマの触り方には遠慮がない。腹のあたりをくしゃくしゃ撫でられると変な声が出た。さすがにそれはマナー違反だぞ、タクマ。 「すっごい癒される……」 「……ぐぅ、ぐ、」 「あー、ずっとこうしてたいなー」 「…………がぅ」  ……できれば、もう少し遠慮してほしい。  なんというか、毛皮と心がもぞもぞして落ち着かない。  目の前に差し出されたうなじと傷跡。  そしてそこから立ち上る甘やかな香り。  どうにも我慢がきかなくてうなじに舌を伸ばすと、タクマはびくりと跳ねて身体を離す。  しかし次の瞬間には「やったな!」と無邪気な笑みを浮かべて、私の首の後ろをわしゃわしゃと撫で回してきた。  つい本能に任せてごろごろと喉を鳴らせば、タクマはまた笑って私に抱きつく。  胸がじんわりと暖かい。  こんな風に、ありのままの姿を受け入れてくれる相手が現れるなんて思っていなかった。  タクマがニンゲンで良かったと思う。  たくさん不自由はさせているが、それでも。  私の首筋に鼻先を埋めながら、タクマが言う。 「ね、これからはもっと虎の姿になってよ。こうやってさ」 「………がぅ」 「……それ、どっち?」  鼓膜を揺らす笑い声を可愛らしいと思う。泣かせたくない。できればずっと笑っていてほしい。  ——参った。気付いてしまった。  私はきっと、タクマのことが。

ともだちにシェアしよう!