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遅咲きの繚乱(4)

 まるでそこにいるのを知っているように、男が真っ直ぐにこっちを見て微笑んだ。低くて綺麗な声が宥めるように背中を撫でる。 「ね?」  射すくめられたように動けなかった。ベッドに戻れと命令する頭と、鍵をゆっくりと外す指。ちぐはぐなオレの耳にカシャンと鍵の外れる音が響く。  影のように滑り込む男の身体、後ろ手に鍵を掛けてチェーンをひっかける。  逃がさないつもりなんだと気づいて、そんなつもりはないのにと笑い出したくなる。  逃げれるものか。  成すすべもなく男の顔を見上げた。  真っ直ぐに伸びた腕が蔦のように絡みつく。  体温が伝わって、これは夢じゃないんだと囁いた。 「どんな風にしてほしい?」  服の上から体を撫で回す指に声を殺した。  喘ぐ姿を笑われて、軽蔑されたらと思うと怖くて仕方がない。  声を殺したオレは勃つことが出来なくて、男の指にも反応しなかった。  ガチガチのオレの身体を見て、男が首を傾げて聞いた。 「ね?もしかして、したことないの?」  びくりと震える身体が答えだった。男が楽しそうに微笑む。 「へえ。いいね」  ベッドに導かれて下だけを剥かれる。男は持って来たローションを後ろになじませていく。  慣れた様子で使いきりのローションを中に流し込まれて、小刻みに体が震えた。  出そうになった声を必死で堪える。 「硬いね。こっちは自分でもしたことない?」  指を滑りこませて後ろをいじりながら男が耳元で囁く。  こくこくと頷くと、歯が軽く耳を噛んだ。  どうしようもなく体が震えて、微かに声が漏れる。  途端に萎えていた前が反応した。  恥ずかしさに顔に血がじわじわと昇る。  それ以上の声が出ないように口を閉じて両手で覆った。  急に反応した場所を男が撫でる。 「耳、好き?」  ぶんぶんと頭を横に振っているのに男がまた耳を噛む。  耳たぶを嬲られて、耳の中に舌が入り込んだ。  水音が耳の中ですると、その音で頭の中がいっぱいになって大きく喘いでしまった。 「あっ……」  自分でも前がいきなり反応したのが判った。  起き上がったものは先走りで濡れている。 「耳、なのかな?」  わき腹を撫で上げた指が乳首に触れて、きゅっと握る。 「んっ……ああ」  一度出てしまった声は抑えるのが難しくて、手のひらの間から漏れでてしまう。  びくんとまた前が動く。  どうしようもなくて、涙が目に浮かんだ。  きっと笑われるだろう。  男が行ってしまったら。そうしたら……。 「声?」  男がオレの顔を覗きこんで冷静に言葉を放つ。  ゆっくりとオレを握ると上下に動かしながら、もう片方の手で乳首を愛撫する。 「あ、ああっ……んっ……」 「かわいい。さっきもいっぱい声出てたよね」  触れた部分を執拗に撫でて、くすくすと笑う。  両手を口から外させられて、横に釘付けにされた。  腰の間に男の体が入り込んで、ジーンズの上からでも判る硬く張り詰めた部分をこすり付けられた。 「もっと聞かせて」  男の腰が小刻みに動く。ジーンズごしにお互いが触れて快感を呼び起こす。  ぐるぐる混乱する頭で、男が声を聞いても大丈夫なんだと理解する。  理解すると、もう声を堪えることが出来なくて大きく喘いでしまう。  男の指が体の間に入ってきて、中に滑りこんでいく。  慣れて来た後ろが何本目かの指を呑み込むようになると、男が耳に息を吹きかけながら囁く。 「どうする?そのままして欲しい?」  病気のことが頭を過ぎった。男はさぞかしもてるだろうから。でも、平凡な自分にはこれから先があるなんて思えなかった。だったら……だったら。 「そのまま……」

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