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早咲きの一花(4)
その日は珍しく残業があった。
今日はそんなに学を見る事はできないなと思う。
いや、久しぶりに見せるべきなのかもしれない。
最近は見てばかりいる。
学は不安そうな顔をするようになった。カーテンを閉める時の溜息も大きくなった気がする。俺の不在を妙な風に誤解しているかもしれない。最近は全く遊ぶ気にならないのに。笑えるくらいだ。
今日は見せようと決心して、コンビニで弁当とビールを買った。
まだ起きているといいが。
早足で階段を駆け上がると、鍵を開けて中に入った。向こうの窓は明るい。そしてカーテンは開いている。
よかった。息を吐いた。
照明をつけようとスイッチに手を伸ばす。
伸ばした手がそのまま止まった。
学の部屋で起きている異変に気付いたからだ。
学はベッドの上で見慣れたパジャマを着て、ベッドに横たわっていた。潤んだ目がこっちを見ている。
そう、何度か。
最初にその喘ぎを聞いて見張ってしまった後も何度かその声を聞いていた。
でも、その時には学はカーテンを閉じて、暗い部屋の中でそれをしていたから、俺はその行為自体を見ることはできなかった。
だが今、学はどうしてかカーテンを開け放ち、明るい部屋の中でこっちを見ながら自分を慰めていた。
手がスイッチから離れる。
ぞくりと何かが背中を撫でて、喉が鳴った。
吸い寄せられるようにベランダへ向かい、乱れて行くその姿を凝視する。
きちんと着たパジャマがよじれて、きれいな筋肉のついた腹が露わになった。
潜り込んだ指がズボンの中で上下に動いている。
上気した顔、開いた口の中で舌が淫らに動いた。
潤んだ瞳と切なげな顔がこちらの部屋をすかし見ている。学が俺の帰りを待ち詫び、行為に及んだのだとその瞳が訴えていた。
こうして自分に向かって咲いていく花は妖艶そのものだった。
一つ喘ぐごとに肌に赤みが注して行く。
あの身体に触れたい。
触れてはいけない理由を思い出そうとした。
沢山あったのだ。そのはずだった。
だからこそ俺は影に潜んでただ眺めるだけの日々を送っていた。
だが、目の前で俺を求めてのたうつ身体を見ている今、どんな理由も思いつくことが出来なかった。思い出したくなかった。
「犯して? ん……ん……犯して!」
求める声に肌が粟だっていく。
学が自分を引き出すと、激しくこすりはじめた。
赤く充血したそれは、使いこんでいないせいなのか、女と交わったことのない少年のような淡い色をしていた。
欲望に曇った涙目が、見えていないはずの俺を真っ直ぐに突き刺す。
激しく吐き出すさまを見て手がカタカタと震えた。
どうしようもなく混乱した頭で、吐き出したものを処理する学を眺める。
あれが欲しい。
無意識にタバコを取り出して咥えて火をつける。
ちりちりと吸い上げながら学が照明を消すのを眺めた。
部屋に戻るべきだと何かが告げた。
頭の中で警報が鳴り響くが、俺はそれを綺麗に無視した。
学は俺を見ればいい。
暗くなった部屋。カーテンを閉めに学が近づいてくる。
ふっと上がった顔が驚愕の表情を浮かべる。
薄暗い中でも、顔が青ざめていくのが、それから事態を察知して真っ赤になっていくのが見えた。
学は身を翻してベッドに潜り込んだ。
さあ……どうしよう。
ベッドの上の学を舐めるように見た。
視線を感じるだろうか。
きっと感じるだろう。
瞳に熱を込めてじっくりと学を嬲っていく。
もぐりこんだベッドの中、あの冴えないパジャマを剥がして、何をしよう。
身体中に唇を這わせるのもいい。
あのまだきれいなモノをしゃぶるのも。
かわいい声で喘がせたい。
ああ、でも……欲望に煙る頭が叫ぶ。
多分、自分は奪うのだろう。
組敷いて。乱暴に。
学の中に自分を刻み付ける。
それはきっと楽しい。
とても楽しいはずだ。
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