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早咲きの一花(6)

 自然に顔が緩んだ。 「へえ、いいね」  すごくいい。  抵抗されるかと思いながら、真っ赤になっている学の手を引くと、抵抗もせずについて来る。ベッドに横にしても、下を脱がせても抵抗しなかった。  嫌がっているわけではないわけだ。  だが、学は萎えたままだった。  後ろの準備をしていると、口を押さえて震えている。  ローションを指に馴染ませて中を探る。  嫌がっている風ではないんだが…… 「硬いね。こっちは自分でもしたことない?」  耳元で囁くと震えながら頷く。  リラックスさせようと耳を噛むと微かな声が聞こえて、途端に前がびくりと反応した。  本人もそれに気付いたのか、きつく口を塞ぐ。  真っ赤な顔の涙目から涙がこぼれそうになった。  学が部屋で大きな声を出していたのを思い出す。  ああ、なるほど。  声……なのか。  俺は学が声を出すのが好きだと知っているが、学はそれを知らない。  別に気にならないと言ってしまえばいいのだろうが、こう可愛い態度で震えられると、どうも意地悪をしたくなる。  溜息をつきたくなるが、堪えた。  ベッドの中での迂闊な溜息は禁物だ。  相手が初心者で、しかもコンプレックスの塊だとあってはどんな風に取られるか心配だ。そしてそんな自分に苦笑する。  まったく自分らしくないことだが、どうやら俺は学が大事らしい。この地味な中年の男を傷つけたくないのだ。  学の身体に指を這わせながら、どうやれば声を出すかを考えた。  焦らして、可愛がって。叫ぶように声を出させたい。  俺はすべての瞬間を楽しんだ。俺の思うように鳴く学に、震えるような喜びを感じる。中に出して欲しいとねだる学に乱暴にねじこむと思うがままに快楽を貪った。  触れてもいないのに学が精を吐き出すと、堪らず自分もすべてを学の中に注ぎ込む。出たこともないような量を絶え間なく吐き出している自分に、笑い出したくなっていた。  学の身体を処理しながら、後ろの傷が大したことが無いのを確認する。  乱暴にしてしまったから。  そうしている間も、学はとても静かだった。  冷静になった頭は、もう終わりにしろと言っている。  ろくでもない俺が学にしてやれることなどないのだと。  自分が学に相応しい人間でないことがとても辛い。  してきた事は償うことができるのかもしれないが、俺は壊れている。  いつまた死にたくなり、それを実行に移すかわからない。死ぬことは構いはしない。だが、学を悲しませたくない。  布団を学にかけ、立ち上がった身支度をした。  バックを拾いあげて、帰ろうときめた。  せめて、学が────  ふわりと浮かんだ考えに、立ち止まって、苦笑する。  お前はどれだけ学を見て居たんだ?  手を差しだせるような人間であれば、学はもうとっくに誰かのものになっていただろう。それが出来ないからこそ、学は学のまま、隠れて小さくなってここにいた。  天井を見上げて、溜息をついて後ろを振り返る。  布団から学が顔を出して、泣きそうな顔をしている。  中年の男の泣き顔だ。気持ちが悪いのが普通だろう。  だが、俺はそれがいいと思っている。  別に学ならなんでもいいだろうと。  そんな自分は相当いかれているんだろうが、どうでもいい。  皮肉な笑いが浮かぶ。  そういえば、俺は名乗ってもいない。 「ねえ?名前とか聞かないの?」  声をかけると、学がベッドから身体を起こした。ゆっくりと振り向いて学を追い詰める。 「はじめて捨てたかっただけ?」  ぶるぶると学の身体が震えはじめる。  葛藤しているのか、何度か喉仏が動いて、とぎれとぎれの声が押し出された。 「お、オレ……おっさんで。か、顔も普通で……」  知ってる。どれだけ知ってるか知ったら学がドン引きするくらい。  そんなのはどうでもいいんだ。 「年上とか顔とか別に気になんないけどな」 「え?」  ぽかんとした顔が俺を見あげる。  ベッドに戻って膝をついて学を抱き寄せて顎をつかんだ。 「俺しかいないんだよね?んで、俺が好き?好きになりそ?」  どれだけ必死なのか。その必死さも知らずに、学は愕然とした顔をした。  信じられないわけか。 「ほんとに犯すよ?」  妙に苛立って、言葉がきつくなった。  固まった学に不安がこみあげる。 「遊ばれたの?俺」

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