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【番外編】遅咲きの繚乱(掌編Ver.)
遅咲きの繚乱の元になった掌編です。ポケクリの年下攻め×おじさん受けサークルで4000文字というくくりで書いたものです。
ポケクリを撤退することにしたので、こちらに持ってきました。
以前読んでいただいた方へのフォローやネット上でのバックアップの意味合いが強く、繚乱を呼んでいただいた方は特に読む必要はないかと思います。
繚乱の原型になった話ではありますので、興味のある方におまけとして楽しんでいただければ幸いです。
★ ★ ★
三十まで童貞だと魔法使いになるという。魔法使いになって九年経過。四十になると何になるのか心配だ。
小さな頃から男が好きで、十五でゲイだと自覚した。
ナイフみたいに尖って周りを傷つけて生きることなんて出来ないから、ひたすら自分がゲイであることを隠した。
平々凡々とした普通の容姿。不細工ではないと思うが、それだけの顔。高くも低くもない背丈。
声だって普通のおっさんの普通の声で。
そんなんだから、自分から積極的にならなければ、もちろん出会いなんかあるわけもなく。
もう少し容姿が良かったら何か違っていたのだろうか。
もう少し…………華奢だったりしたら。
こんな風に男に抱かれることばかり考えている。
自分でも気持ち悪いとは思うが、性的嗜好なんてそうそう変えれるものでもないし。
鏡にうつった自分をまじまじと見る。
平々凡々のどちらかと言うとダサ目の自分がこちらを見ている。
ときめかないよな。うん、ときめくわけがない。
トイレに入ってもそもそと自分のものを取り出す。
そして、気がついた。
「うわ、白髪になってんじゃん。」
陰毛に混じった白い色の毛を見て愕然とする。
動揺して抜こうとしたが増えるという噂を思い出してやめた。
もちろん髪の毛にはもうとっくに白いものが混じっている。
若白髪だと言い聞かせるのはとっくに諦めた。
ハゲていないんだからそれだけで幸運なんだろう。
はあと肩を落としながらトイレを出る。
ベッドに近づくと、足をベッドの下に入れて腹筋をする。
誰に見せる予定もないんだから、こんなことしたって無駄だ。
わかってるんだけど……もしかしてのその時にとか。
抱かれたい方だから、ちょっとは綺麗で居たいとか。
マッチョにならないようになんて気を使ってるんだ。本当に笑える。
多分、全部無駄な努力なんだ。
三十九年生きてきて、誰にも見向きもされなかった。
これから先だってきっとそうなんだと思う。
ハッテン場みたいな所に行ってみようかと考えたこともある。
調べて、考えて、考えて、考えまくって。
でも、結局勇気が出なくて。
諦めてしまった。
運動が終わって、風呂に入る。
身体を洗っている時に、悩んで悩んだ挙句、結局白い毛を引き抜いた。
罪悪感と不安とそれからごまかせたという安堵。
ごしごしと身体を拭いて、カーテンを引いていない事に気づく。
向こう側の窓は暗い。
帰って来てないんだな。
向かいの部屋にはすごく見栄えのする若い男が住んでいる。
……なんというかオレの好みの。
背が高くてがっしりしたしなやかな身体をしている。
くしゃくしゃの長めの黒髪に切れ長の目、自分の身体に自信を持っている若者らしくジャストサイズの洋服をラフな感じで、でもおしゃれに着こなしている。
男はカーテンを閉めるという習慣がないようで、灯りのついたままの部屋の中で下半身だけスエットをひっかけて歩いていたりして目の毒……いや保養なのか。思い出して身体の中で何かが疼く。
時々、ベランダでタバコをふかしていて、会社から帰ったオレがカーテンを引く時に目が合ったりして、そうするとお互いに会釈をする。
そんな関係だ。
もう少しオレが若ければ、叶わない恋慕を抱いたかもしれない。
嘘つきだな。オレはあの男に恋をしている。
はあってため息をついてベッドに横になる。
横になる前にカーテンを閉めればよかったのに、閉め忘れた。
灯りを消せばよかったのに、消し忘れた。
そして今、いろいろ絶望して起き上がる気力がない。
さっき感じた疼きは心臓を刺して……それから胃を伝わって下半身に降りてくる。
ころりと身体を横にすると、主のいない向かいの部屋を見る。
男を思い出しながら、ゆっくりと自分を慰め始める。
「はあっ……ん……ああん。」
恥ずかしいくせなんだが、オレは喘がないとイケない。
おっさんが喘ぐなんてどうなんだと思うんだが。
でもそうしないといつまでも終わらない。
頭の中で男がなじるような目でオレを見る。
冷たい目に綺麗な身体。後ろを犯される想像に、前が大きく膨らむ。
「んっ……あっ……き、きもちい……ああ……やあっ。
ん、んっ……いきそ……ああん……んーっ。はあっ……ああん。」
AVの女優のような喘ぎ声が口から漏れる。
いつもより強い快感に意識が飛びそうになる。なんだろう、すごく感じる。
「あっ……ん……ん、もっと……んっ。犯して?ん……ん……犯して!」
あ、マジでイキそ。
身体を起こすと、しごきながらティッシュに吐き出す。
いつもとは違う大量の精液は、男を思い出していたからだろう。
吐き出した途端に罪悪感が込み上げてきて泣きそうになる。
「な……にやってんの。」
喘いで掠れた声で呟く。
乱暴にティッシュを処分すると、部屋の明かりを消した。カーテンを閉めようと窓を見る。
暗くなった部屋の中、向かいのベランダに灯りが見える。
向こうの部屋の明かりじゃない。タバコの火の小さな。
心臓が止まりそうになる。
むしろもう止まってしまえばいい。
絶対見られてた。聞かれていたかもしれない。
聞かれていなくても、喘いで、陶酔していたのはわかったに違いない。
このまま消えてしまいたい。
カーテンに近づく勇気がなくて、ベッドに潜りこむ。
ぐるっと布団を巻きつけて、震えながら壁を見つめる。
男が部屋に入ったら、カーテンを閉めればいい。
そう自分に言い聞かせてじっと息を殺す。
どれだけ時間が経ったのか、寝返りをうつと、まだ男はベランダにいた。
案外遠いようで近い都会の部屋だ。両方の部屋の明かりが暗いから、男の表情ははっきり見える。
目が合って、男の口がゆっくりと弧を描いて微笑むのを見つめた。嘲るでも、皮肉るのでもない誘うような唇がタバコの煙を吐き出した。
男の唇がゆっくりと言葉を作り出す。小さい声なんだろう。声は聞こえなかった。でも。オレにははっきり聞こえた。
お か し て あ げ る
立ち上がってカーテンを思い切り閉めた。
狂ったように動く心臓を抑えて、その場にへたり込む。
からかっただけだ、そうに違いない。
カーテンの隙間から外を覗くと男の姿は消えていた。部屋の明かりも消えたままだ。
ほっとしてる。そうだよな?
ベッドに潜り込んで、カタカタ震える自分を抱きしめる。
「別に引っ越せばいいじゃないか。」
強がりを言う自分の声が誰もいない部屋に虚ろに響く。
そもそも扱いてるところを見られたからって何だって言うんだ。
おっさんが一人であんあんしてる所を見て楽しかったなら何よりじゃないか。
ピンポーン
ドアのベルの鳴る音がする。まさか。そんなはずはない。
無視して顔を枕に埋めると、責めるようにもう一度。
ピンポーン
よろよろと立ち上がり、ドアを覗く。
黒いくしゃくしゃの髪、綺麗な肩の線。
男だ。
コンコンと扉が叩かれた。
「ね?開けて?」
まるでそこにいるのを知っているように、男が真っ直ぐにこっちを見て微笑んだ。低くて綺麗な声をしている。背中を撫でられたように全身に震えが走った。
「ね?」
射すくめられたように動けなかった。ベッドに戻れと命令する頭と、鍵をゆっくりと外す指。ちぐはぐなオレの耳にカシャンと鍵の外れる音が響く。
滑り込む男の身体、後ろ手に鍵を掛けてチェーンをひっかける。
逃がさないつもりなんだと気づいて、そんなつもりはないのにと笑いたくなる。
真っ直ぐに伸びた腕が蔦のように絡みつく。
「どんな風にしてほしい?」
撫で回す指に声を殺す。喘ぐ姿を笑われそうで、どうしてもそうしてしまう。
そうするとオレはイケなくて、どうしていいかわからなくなって涙が滲む。
ガチガチのオレの身体を見て、上半身を起した男が首を傾げて尋ねる。
「ね?もしかして、したことないの?」
びくりと震える身体が答えだった。男が楽しそうに微笑む。
「へえ。いいね。」
持って来たローションを後ろになじませながら中を探っている。
何かに触れられて大きな声が漏れる。
すると、前が大きく膨らんでよだれを流し始めた。
「ああ、さっきも声出してたもんね。」
触れた部分を執拗に撫でて、くすくすと笑う。
「もっと聞かせて。」
耐えられずに喘ぐと前が反応する。
慣れて来た後ろが何本目かの指を呑み込むようになると、男が耳に息を吹きかけながら囁く。
「どうする?そのままして欲しい?」
病気のことが頭を過ぎった。男はさぞかしもてるだろうから。でも、平凡な自分にはこれから先があるなんて思えなかった。だったら……。
「そのまま……」
男が妖艶に笑う。いい子だと掠れた声が囁いて、オレの目を見ながら何度か慣らすように腰がゆれて、一気に中に入る。
「あ……った。ったい。…………はっ。」
「きっつ。」
そう言いながらも容赦なく腰を動かす。
「啼かないとイケないんだもんね?」
喘ぎながら頷いた。ひときわ大きく突かれるとあられもない声と共に欲望が大きく二人の間に飛び出す。
「ん……俺も出る。」
身体の中にどくどくと何かが吐き出される。
ぐったり動けなくなるとずるりと抜かれた感覚。
尻の間に何かが流れた。
男がオレの処理をする。
血と何かでどろどろのティッシュがゴミ箱に入って行く。
優しい男の手つきと終わってしまったという感覚に喉が詰まる。
立ち上がった男が玄関の方に行きかけて振り返った。
「ねえ?名前とか聞かないの?」
はっとあげた顔に男が微笑む。
「はじめて捨てたかっただけ?結構……見てたよね?」
「お、オレ……おっさんで。か、顔も普通で……」
「別に気になんないけどな。」
「え?」
「俺しかいないんだよね?んで、俺が好き?好きになりそ?」
答えられずにいると、綺麗な顔が不愉快そうに歪む。
「ほんとに犯すよ?」
どういう事かわからずに、ぼんやりと男を見つめる。
「遊ばれたの?俺。」
頭を振ると、男が俺を抱きしめる。
「じゃあ本気になって。」
激しいキスが振ってきて、これがファーストキスだと気づいて呆然とする。
男にそれを告げると、綺麗な顔がほころんだ。
「俺、ラッキーだな。」
唇が重なって、どうやら遅咲きの俺に若い恋人が出来たようだと気がついた。
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