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【番外編】大人になるには 学、大人の宿へ行く (1)
こちらからの文章は大人の塔へ行くの完全なる続きになります。
★ ★ ★
いかにも慣れた雰囲気の迅に手を引かれて中に入る。
部屋の写真の沢山並んだパネルの前を止まらずにすり抜けると、誰もいないフロントで立ち止まった。
「ちょっと待って」
手を繋いだまま、もう片方の手で迅がフロントに置いてある電話の受話器を取った。すぐに誰かが出て、迅が話し始める。
すごくドキドキしている。おずおずと周りを見回した。
外観と同じく中も南国っぽいイメージで、あちこちに観葉植物が置いてあった。全体的に薄暗くて、ムードがある。この匂いは何かな。お香とか炊いてるのかもしれない。
黒っぽい木のついたてでいくつかに区切られた場所には、ラタンのソファーとローテーブルがあった。順番待ちの客が待つスペースなんだろうか。こんな所で待ってるとか、オレには絶対無理だと思う。
誰か来たら、オレ……逃げるかもしれない。
そう思った瞬間、繋いだままだった手にぎゅっと力がこもった。
「ダメだよ」
片手で受話器の口を隠すよう、器用に握って、迅がいう。
なんでお見通しなんだよって思うと、じわじわと顔が熱くなる。それが恥ずかしくて、視線が泳いだ。そんなオレを見て、迅は薄く微笑んで受話器を置いた。
「行こ」
もう後戻りは出来ないよな。手を引かれるままにドキドキしながら迅に続く。なんか、口から心臓が出そうだ。もう四十路だって言うのに余裕とか全然ない。
薄暗いエレベーターホールで、降りてくるエレベーターを待った。チンと音が鳴ると、迅が一歩前に出た。開いたエレベーターにはカップルがいて、息が詰まりそうになる。一歩前にでた迅がオレを隠しているのに気がついた。カップルの女の子が迅をガン見している。迅に目を奪われて、当然一緒なのは女だと思っているのか、オレには意思が向かなかったみたいだ。カップルの男はそんな女に腹を立てたみたいで、オレのことなんか気にしてない。カップルがエレベーターから出るのと同時に、迅の反対側から中に押し込まれた。
階数ボタンのある入り口の隅に縮こまると、悠々と迅が中に入って来てボタンを押す。ボタンを押した迅がオレを反対側の隅に引っ張って隅に押し付けると向かい合わせにぴったりと寄り添って立った。
おどおどと見上げると、迅の唇が額に触れる。
「あっち側はカメラからよく見えるから」
そうやってオレを守ってくれているんだと、嬉しいような情け無いような気持ちになる。
オレが誰とホテルに入ろうと、それが例え迅のような若い男とだって、もう気にするような年でもないのに。
「あのね」
迅が低い声で囁く。
「俺の知らないとこに、学の画像があるの……嫌なんだ」
迅がオレの頬を撫でた。
「オレのことなんか、誰も気にしないよ。
さっきの女の子だって、迅のことしか見なかっただろ?」
なんでそんな卑屈な事を言うのか、自分の舌を噛み切りたくなる。迅の表情を見るのが怖くて俯いてしまった。そうすると、自然に頭がこつんと迅の胸に当たる。
迅は何も言わずにただ、オレの頭に顎を乗せて溜息をついた。
エレベーターが止まって、迅がオレの肘の辺りを掴んでエレベーターを降りる。やっぱりここも南国ムードで、観葉植物に落とした照明。それから何か不思議なお香みたいな匂いがした。
びびって逃げるとでも思ってるんだろうか。
迅は腕を離さなかった。歩幅は合わせてくれているんだろうけど、急かすような早足の迅に引き摺られるように廊下を歩いて行く。一番奥のドアを開けると、中に滑り込んだ迅がオレを中に引き込んで、そのまま扉にオレを押しつけた。
「誰もって、俺も? そう思われてるってこと?」
違う。
そういう間もなく、迅の唇が重なる。
指先が頬に喰いこんで、強引に唇を割った。
容赦のない舌先が中に入り込んで、めちゃくちゃに中を荒らしていく。息苦しいようなキスに、それでも迅に慣れ切った身体は快感を拾う。
「ん……あん……」
ぞくぞくと震えながら迅の首に手を伸ばして引き寄せた。
「誰が……誰を気にしていないって?」
少し離れた唇を迅の言葉が嬲る。
「俺が、とか、有り得ないよね」
「ご、ごめん。迅のことじゃない」
迅の指先がネクタイの結び目を持ち上げる。ネクタイが首を締めて苦しくなった。
「んっ……」
息を詰めると、迅が笑み崩れる。
「そういう顔とか、すごくそそる」
器用な指先がネクタイの結び目にかかって、一気に下に下げた。ぶら下がったネクタイの間を指先が這って、一番上のボタンを外す。外したボタンから見えた肌に、迅が噛みつくようなキスをする。きゅうって喉の奥で音がして、ぞくぞくって背筋が痺れた。
「じん……」
脚の間に入り込んだ迅の脚がぐりっと股間を擦り上げる。
「あっ」
溜まっていく血を楽しむように、迅が脚を動かした。
「んっ、んっ。あっ……」
襲ってくる快感に、脚に力が入らない。
迅の入り込んだ脚に座るみたいに乗ってしまった瞬間を狙うように強く突き上げられた。
「あんっ、あああっ!ひゃ……」
がくがくと震えながら力なく前のめりになって迅に手を伸ばす。
詰るような目、唇の間から舌が覗く。それが欲しくて仕方が無くて、はあはあと息を吐きながら震える舌を差し出す。
「なーに?」
膝が乱暴にオレを転がす。
「あっ!あっ!」
衝撃に背中が痺れる。迅の肩をつかんで震えながら、それでも舌をつき出した。
「なに?」
光を吸い込むみたいな黒い瞳。言わなきゃだめなんだ、だめ、だめ。
「ひす、して」
突きだしたままの舌じゃ、そう囁くのが精一杯で、だけど、その一言にびくんとモノが反応した。くすくすと迅が笑う。追撃するみたいな膝の動きにぶるぶると足が震えた。
「ほら、舌噛んじゃうよ?」
べろべろと迅が舐めまわす舌に、はあはあと犬みたいに喘ぐ。ぴちゃぴちゃといやらしく鳴る音に、イッてしまいそうなほど感じる。
「口の中もめちゃくちゃにしてほしい?」
うんうんと頷いて、誘うように口を開いた。
「かわいんだ」
扉に背中をつけたまま、ずるずると座り込んでしまう。
離れてしまったのが切なくて手を伸ばすと、迅が身を屈めた。
差し出された迅の舌の先に唾液が光っている。
それが欲しくて舌を伸ばすのに、絶妙な位置で届かない。
欲しいのに、欲しくてたまらないのに。
どうして、意地悪するんだよ。
「やら、やらぁ……」
泣き声を出すと、迅が笑いながら舌先に唾液を垂らした。
「ほら、舐めて……」
うんと頷いて、甘い唾液を呑みこむ。
「もっと欲しい?」
「ほしい」
囁いて口を開けると、迅がいきなり舌を奥まで差し込んできた。えづきそうになるのをこらえながら、ぬるぬると動く舌を味わう。
ざらりと舌がうごく度に、背中がぞくぞくした。ぐいと股間を押す膝にそのままいってしまいそうになる。
「汚れちゃったら……帰れなくなるでしょ?」
何もかもお見通しの瞳が微笑んでオレを見る。
「それとも、学の匂い、ぷんぷんさせながら電車に乗っちゃう? 股間にしみつけて……きっとチラチラ見られちゃうよね」
その想像にぞっとして、涙目でぷるぷると首を振る。
「みんなに、変態、だっていわれちゃうね」
「やだ、やだ、」
「おいで?」
半泣きで迅が差し出した腕に縋ると、ひょいと抱き上げられた。
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