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【番外編】大人になるには 学、大人の宿へ行く(3)
「ご褒美にいっぱい気持ちのいいことしてあげるね?」
耳元で囁かれてびくんと身体が跳ねる。上から重みが消えて、ドアの横に放り投げてあった袋に向かった。
がさがさという音がいやに耳につく。
その中に入っているおもちゃを思いだして喉が鳴った。
「こういうのは、震えるだけでさ、そんなに気持ち良くないと思うんだけど……音とか、されてる感じがいいかなって……」
ピンクの小さい玉が二つ目の前に差し出された。ぶーんって音をたてながらお互いがかちかちと触れている。ずるっと咥えていたシャツを取られて、唇にローターが押し付けられた。唇に振動が伝わる。
「ほら、舐めて?」
舌先に乗せられて、振動を感じた。単調に震えているだけで、確かに気持ちいいとかそんな感じはしなかった。
「とりあえず、乳首に貼ろう」
え?
うつぶせになった身体を起こされて、正座させられた。
紙のテープでピンク色のローターを貼り付けられる。ぶーんと鳴る音。確かに、それほど……思った瞬間、振動が強くなる。
「っ……あああ、ああっ!」
衝撃に身体を丸めてしまう。おっと、迅が肩でオレの頭を支えた。
「強すぎ?かな」
うんって頷いたんだけど、迅はにっこり微笑んで、強さを調節するダイヤルをぽいと投げてしまった。
「え?あ、」
ぬるりと迅の舌が口の中に入りこむ。いじわるな指先がローターをぐりっといじった。
「ひゃ、あ、」
身体が跳ね上がって、唇が離れた。ひくひくと前が揺れる。
迅の肩に頭を乗せて叫んでしまう。
「やあっ、い、くっ、って」
「いいよ?」
迅はまだ服を着たままだ。
「だ、……めっ。かか、るからぁっ」
「いいよ?学ので汚してよ」
家だったら出しちゃったに違いないんだけど、ここはラブホで、泊まるとか全然考えてなかったから、当然着替えなんか持ってきてないし、そんなことしたら帰れなくなる。
せめて下にって思うけど、両手を縛られてるんじゃどうしようもない。
ぐるぐる考えてると、迅が耳元で囁く。
「なんか考えてるとか……余裕だね」
冷たい感触が尻に触れる。ローションだって思った瞬間に、指が入りこんだ。
「ひゃ、」
くちゅくちゅと音がする。どうしようもなくて、迅にすがると、胸のローターが強く当たって、刺激でどうしようもなく悶える。
やだ、やめて。
叫びたいけど、今、何かしゃべったら絶対我慢できない。
がくがくと震えながら迅のコートに噛みついた。
まだ、コートも脱いでないんだ。くらくらした頭でぼんやりそう思う。
「我慢しちゃうんだ?」
楽しそうに迅が言って、オレの好きな場所を、ことさらに強く押す。びくんびくんと震える身体に低い笑い声をあげた。
「可哀想だから、これ挿れたら脱いであげるね」
黒い小さめの張型の後ろに取手がついてるみたいな。それは、迅のよりは全然小さいんだけど、ペニスを模したその形は根元が細くなっていて抜けにくそうな形状になっていた。
今、こんなの入れられたらって涙目になる。
「いや?」
「いや、じゃな、けど。でも。じんしか、いれたこと、ない、から」
「そうだね」
ぐるんと身体が回ってベッドの上に這いつくばった形になる。ベッドに顔が埋まって息が苦しい。これじゃ、迅の顔が見えない。
「じ、ん?」
迅はそれに答えなかった。
何かしてる気配が心細さを煽る。後ろから腰をつかまれて、高く起こされた。ひやって触れるものが冷たくて、迅と全然違うって怖くなった。
「じ、じん。や、やだ」
なんとか前に逃げようとするけど、この状態じゃどうにもならない。
入りこんでくるものに吐き気がする。乱暴に根元まで突っ込まれて涙が溢れた。
「っ……や、だぁ」
中を何度も抉られて、怖くて身体が竦む。
声を出しているのに、萎えて小さくなったものがぶらぶらと力なく揺れているのを感じる。
後ろにいるのは迅だってわかってるんだけど、息すら聞こえないから本当に迅なのかわからない。
いつも迅の手は温かいのに、今は冷たくて。それが怖くてたまらない。
「やだ、こ、こわ、やめて!たすけて!じん……じん!」
一生懸命身をよじって叫ぶ。涙がぼろぼろ毀れて、垂れてきた鼻水でますます息が辛くなる。完全に萎えたものをつかまれて、乱暴にこすられた。
「やだ!やめろ!」
どうにかして暴れようとした。
「たすけて!じん!」
これは迅なのに。どうしてもそう思えなくて、泣き喚く。冷や汗が噴出して、がたがたと身体が震えた。
「もうやだ、もうやだあ。やめて、たすけて、じん、じん、」
ずるっと後ろから引き抜かれる感触。後ろ手がほどかれてローターが引き剥がされる。それから、膝の上に抱きかかえられた。
泣きじゃくるオレを迅の真っ黒な瞳が覗きこむ。ああ、迅だ。やっぱり迅だった。
安心する気持ちと、どうしてこんなことしたんだろうって気持ちが頭の中でぐるぐるする。
嫌われてしまったのか、疎まれているのか。
それはいやだ。絶対にいやだ。
冷たかった手が身体をはいあがって行くうちに温かくなる。
頬を挟まれて唇が涙を拭った。
黒くて残酷な瞳がじっとオレを見て囁く。
「これが……レイプされるってことだよ?学」
れいぷ。
ひくっと涙が止まる。
「俺は学が嫌がることもするけど……今のとは違うでしょ?」
「ぜんぜん、ちが……」
「こんなこと、他の誰かが学にしたら、俺はそいつを殺すから」
ぎゅっと迅がオレを抱きしめる。
「あいつのことも、殺したかったよ」
耳元で軋るような声がする。オレは何がなんだかわからなくて、ただ迅の腕の中で震えていた。迅が髪を撫でて、背中を撫でる。
あの痴漢の財布を触ろうとした時、迅がものすごく嫌がったことを思いだす。汚れるって迅はそういった。
「学はさ、自分のこと、冴えないおっさんだって言うけど。全然……そんなじゃないからさ」
温かい唇が頬や耳に触れる。ティッシュで垂れてる鼻水をぬぐってくれた。
でも、オレ、本当に本当に冴えないおっさんだし。どこにでもいるような奴で、全然、平凡だよ。
思ってると、迅がオレの顔を覗きこんでため息をつく。
「あのね……学は俺の女なの。俺がそうしちゃったんだんだ」
え。
ぽかんと口を開けたオレに迅が薄く笑う。
「いや?」
ふるふるっと首を振る。
別になんでもいい。男でも女でも。
迅が求めてくれるなら、別になんだっていいんだ。
ペットや……奴隷だって構わない。
「最近、色気が出てきた」
すんって迅が首筋を嗅ぐ。
「ほら……誘うような匂いがする」
それ……加齢臭とかじゃないのか?
オレ、臭いの? 腕のにおいをくんくん嗅いでみるけど、自分の臭いってわかりにくいよな。
「オレ、臭い?」
ぷはって迅が笑う。ぎゅって抱きしめられて舌先が耳の後ろ辺りを撫で上げる。ぷるぷるって震えるオレの耳元で低い笑い声がした。
「いい匂いがするってこと。時々、すごい色っぽい顔もするしさ……俺がいろいろ教えたせいだと思うんだけど……心配だし、妬ける」
そんな……地味なおっさんなんだし。だけど、痴漢されちゃったのは確かで、オレなんかより、迅のほうがそういうのはよくわかってるんだろうし。
「危ないとこには一人で行かないで?」
うんうんって頷く。
「ごめんね。怖かったでしょ?でも、男同士って、事件になりにくいから、無茶苦茶する奴もいるから……さ。俺であんなに怖いなら、知らない人ならもっと怖いよ……って知ってて欲しかったんだ。
好きな人とのプレイってのとは違うから。
ほら、俺達、最初無理やりっぽかったでしょ? 勘違いしてるかもしれないって思ったんだ」
「あれは……あれは、オレは、あれの前から……迅のこと、す、す、すきで」
思い出してかあって赤くなった顔を見て、迅が微笑む。
「俺も、頭がおかしくなるくらい好きだったから」
真剣な顔でそう言われて、喉できゅーって音がする。
ああ、オレ、幸せだ。すごく、幸せ。
「今日みたいにさ、危ないとこに学がいたらって、今みたいなこと、誰かにされたらってすごく心配なんだ」
男なんだから、女扱いするなとかそう思わなきゃいけないのかな。でも、それよりもオレは迅に思われているのが嬉しくて。心配してくれるのは大事にされてるからだって、迅のものだからなんだって思っちゃって……情ないのかもしれないけど。
でも、オレはそれでいい。
「重くて、嫌かな」
ぷるぷる頭を振ると、迅が微笑んで、真っ黒な瞳に光が浮かぶ。
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